兄とは


●5、4年前
廉造(11〜12)+夢主(13〜14)



明斗にとって廉造は、初めての弟だった。兄だって志摩家に来て初めてできたものだったが、弟というのはやはり未知との遭遇のようなものだったのだ。廉造は幼いながらどこか悟ったようなところがあって、明斗のことは「色々あるんだろうから受け入れておこう」というようなスタンスを取っているのだろうことははっきり分かった。

兄である自分は、ではどうやって振る舞えばいいのだろう、と明斗は考えて、まずは他の兄たちを観察した。廉造にとって、他の兄と違うタイプの兄である方が良いかと思ったのだ。

まず柔造は、やはり一番上だけあって一番大人っぽく接していた。怒鳴り散らさず、頭ごなしにも言わず、先回して諭す。あれは真似できない。ただ、柔造は今、弓の世話で手一杯だ。
剛造は、典型的な真ん中っ子だ。中間子は独立精神旺盛で、兄弟や家族から一歩離れたところにいることが多い。今年から剛造も祓魔師として本格的に働き始めたため、あまり家にいない。
金造はよく廉造と衝突している。というか、金造はちょっかいをかけたりちょっとした意地悪をしたりと、これはこれでよくある兄貴だ。普通に優しい一面もあるし、構ってあげようと思っての行動でもあるのだが、今は学園の寮にいるため家にいない。

大人っぽい、サバサバ系、兄貴系と個性を出す他の3人。明斗は、それならば「普通の」兄になろうと思った。普通に優しくて普通に頼れる、当たり障りない兄。廉造はしっかり自分があるから、あまり干渉はせず、しかし勝呂を守るという生まれながらに課せられた使命の息抜きになれたらいい。

そのため、明斗は何でもないひとときをまずは共に過ごそうと思った。






とある夏の日、5年生の廉造は庭に面した部屋でうだうだとしていた。縁側を通りかかった明斗は、「どうしたの?」と声をかけた。


「お腹空いてん…けど、庭の野菜つまみ食いし過ぎて怒られてもうたさかい、もう手出せへん」


どうやら空腹を紛らわそうとゴロゴロしているらしい。よく勝呂や三輪の子どもたちとつまみ食いをしては怒られていたが、ついに出禁を食らうとは。


「んー…任せて」


そこで明斗は、庭のキュウリに向けて右手を向けた。すると、風がキュウリの周りで巻き起こり、キュウリを鋭い風で刈り取る。そして、そのまま風に乗せて部屋に移動させた。最後に風から手で掴めば、完全犯罪の成立である。


「ほら」

「ふぉぉすげぇぇえ!!なんなん今の!!魔法みたいやんなぁ!!」

「また洋風な例えして…」


確かに某英国印の名前を言ってはいけないあの作品のようなことをした。廉造はテンションをあげてキュウリを食べ始める。その頭をぽん、と一撫でしてから、明斗は勉強の続きをしに部屋に戻った。




またあるとき、明斗が14歳、廉造が12歳のときのことだ。

祓魔師となって1年目の明斗は、報告のために八百造の書斎を訪れていた。しかし本人はおらず、少しそこで待っていると、外から八百造と柔造が話しながら近付いてくるのが聞こえた。

そこに、軽い足音がもうひとつ。


「お父!柔兄!」


廉造が2人を追いかけてきていたようで、2人の足音が止まる。廉造は追い付くなり、息を切らしながら切羽詰まったように言った。


「次の土曜空いとる?」

「土曜?俺は仕事やな…柔造は」

「俺もパトロール入っとる。剛造もやった気がする」

「…そうやんな、ありがとぉ!」


返答を聞いた廉造は、うまく何でもないように言ってまた駆けていった。
八百造たちは「なんや…?」と疑問を口にする。実は、明斗は何か知っていた。
昨日、母親に「次の土曜、授業参観なんやけど…」と言っていたのを見掛けたのだ。母親は弓の世話があるから、と断っていた。それで八百造たちに声をかけたのだろう。
珍しく自分から参観日であることを伝えただけでなく、八百造たちにまで聞くほどだ、何か特別なのかもしれない。

そこに、八百造たちが書斎へ入ってくる。


「もう来てたんか」


八百造は明斗の姿を見留めてから執務机に向かう。そこで、明斗はさっそく聞いてみることにした。


「お父さん、次の土曜、休みくれない?」

「なんや珍しい、やっと休み消化するんか…にしても、廉造といいなんなん?」

「廉造、授業参観なんだって」

「それ俺らに言うて来たんか」


柔造はそれを聞いて驚いた。やはり意外だったようだ。そもそもが真面目な方でもない、わざわざ参観日を告げるのが珍しいらしい。


「それで明斗が行くんやな」

「うん。代わりに見てくるよ」

「助かる。代打は探しとくさかい、廉造に言ってきたりぃや」

「分かった」


明斗の意図を理解した八百造はすぐに休みを了承した。前々から休みを消化しないと正十字騎士團から怒られると言っていたこともあるだろうが、やはり父親として、廉造のためにということが大きいはずだ。


「すっかり明斗もお兄ちゃんやんな?」

「うっさい」


頭を撫でてくる柔造の手を払い、明斗は八百造に言われた通り廉造のところへ向かう。廉造の部屋に行ってみると案の定そこにいて、プリントを見ながらため息をついていた。


「廉造、」

「ん、アキ兄や、どないしたん?」

「次の土曜、俺が行ってもいい?授業参観」

「へ……」


プリントを指差しながら言えば、参観日のお知らせ、というプリントを指から滑らせて廉造が呆ける。そんなに意外か、と思うが、廉造は途端に破顔した。


「ホンマ!?アキ兄あんま外出えへんから意外やってんけど、嬉しいわ!!…今回の、小学校の最後の参観日やってん」


へら、と笑う廉造は、年のわりには上手く隠せているが、それでも寂しそうな様子が垣間見えた。最後だから、見に来てほしかったんだろう。自分でいいのだろうか、とも思ったが、そこは自分で我慢してくれと内心で頼んでおく。


「そっか。楽しみにしてるな」

「あんま期待はせえへんどいてぇ」


照れたように笑う廉造は、確かに弟の顔で。少しは兄貴面できているのかな、なんて明斗も思うのだった。





ちなみに、私服を持っていない明斗は当然着物だったため非常に目立ったが、廉造は「それだけやないねんけど…まぁええわ」と濁していた。小6のくせに何を一丁前に、と思ったが、ちゃんと小6らしくチラチラと後ろを見ては嬉しそうにする様子が可愛かったので許す。

すっかり弟が可愛くて仕方がないタイプの兄になってしまった明斗だった。


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