エイプリルフール
●2030年4月
エイプリルフールネタ
柔造×主
激化する東欧戦線から戻ってきた玲弥は、軽い時差ボケから何とか復帰して仕事に戻っていた。とはいっても、基本的に気が向けばどこでも寝る気ままな生活をしているため、特に何が変わったというわけでもないのだが。
テレビは連日のように戦争のことを報じており、まだ欧州と交戦国のロシア、トルコ、新たな戦地となったインドなど早急に帰国させなければならない邦人が13万人に上る。その目処も立っていないのに、これから戦場となる可能性があるASEANと中国、韓国にいる17万人の帰国も行わなければならず、さらには米国からの外圧で安保法を発動させるかどうかで国会は紛糾している。
そんな状態でも、傭兵という身分である玲弥たちのやることは変わらない。そうした市民を守るのは国防軍の仕事であり、傭兵は戦うのが本業だ。
ただ、玲弥に関しては仕事の大部分がスパイや人質の救出、暗殺など特殊なものなのだが。
さて、新年度に入った今日から、この正十字騎士團日本支部も新卒採用を開始する。失業率18%、内定率56%という空前の大不況にあって、国防軍と並んで人気の志望先だ。もはや武器を取るしか方法がないのだろう。
藤本を中心にお偉いがたは大忙しだ。
特科大隊に限って言えば、毎年ひとり能力者がいればいい方だが、もしかしたらと期待してやって来る者は後を断たない。そもそも能力者はこちらからコンタクトを取るのだ、新卒募集など特科大隊には無意味なのである。
大尉も大変だな、と自身の准大尉の肩書きを気にせず考えていると、突然背後から声をかけられた。
「玲弥」
「…柔造さん、」
声の主は中尉の柔造だ。相変わらず爽やかな笑顔を向けている。これで玲弥に性的に手を出すのだ、たとえ爽やか男前でも所詮は傭兵である。そんな失礼なことを考えていると、柔造は足を止めた玲弥の肩に手を置く。
「玲弥、今日はエイプリルフールやな」
「…、あぁ、そういえば」
一瞬なにかと思ったが、言われてみればそうだ。日付の感覚も曖昧なのだ、そんなイベントなど覚えているわけもない。
「……で?」
「いやいや!なんかあるやろ!」
「嘘つけって?」
「ほら、『柔造さん嫌い』なんて言うてもホンマは好き…みたいな!」
「嘘から出たまことってね」
下らない、と玲弥はそうあしらって踵を返す。そんな面倒なことをするほど、玲弥はアクティブな人間でないと自負している。
「いやそれどういう…まぁええわ」
それでも柔造は諦めず、追い掛けて後ろから玲弥を抱き締めた。そして、耳もとで囁く。
「俺は嫌い、やで?玲弥…」
「…、あっそ」
「うっす!リアクション薄いで玲弥」
「…元からだけど?」
どこまでもつれない玲弥に、そろそろ柔造もシュンとしてきた。おとなしい大型犬っぽいところがある柔造だ、そういう反応をされるといくら玲弥でも罪悪感が湧く。
「…じゃあさ、ちゃんと教えてよ、どんくらい嫌いか」
そう言って玲弥は、体の向きを変えて柔造に向き合うようにし、右手を肩にしがみつくように回して、左手で柔造の右腕をするりと撫でた。一気に大人の匂いを纏わせた仕種に、柔造はごくりと喉を慣らした。
「っ、ええで、しっかり刻み込んだるわ…」
濡れた声で柔造は言うと、玲弥と唇を重ねようとする。
その瞬間、玲弥は能力を使って離れたところに転移した。柔造は呆気に取られる。
「エイプリルフール。嘘ついてやったけど」
「え…っ、」
「じゃあね」
意趣返しに成功し、玲弥は笑いこそしなかったものの、無表情に少しの楽しげな色を乗せて、さらに離れた廊下へ瞬間移動したのだった。