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勝呂は突然ぐっ、と腕に力を籠めた。タンクトップのノースリーブから覗く肩や二の腕の筋肉が盛り上がる。同時に、ロープが解かれた。動いているときから緩んでいたようだが、いくらそうでも筋肉バカ過ぎる。


「ひぁっ、!!」

驚きに目を見開いた瞬間、突然強く押され、体がベッドに打ち付けられた。視界が反転して天井になり、直後に勝呂の顔が入る。中に勝呂のモノが入ったままだったため、強い衝撃が走った。
玲弥を逆に押し倒した勝呂は、「はぁ、はぁっ、」と息を荒らげながら玲弥の手を頭上で一纏めにしてしまう。


「え、ちょ、勝呂…っ、」

「…足りひん……もっと寄越せや……」

「んなっ、お前何言って…!」

「俺なら、ええんやろがィ…!」


ニヤリ、と獰猛に笑う。それは獲物を前にした肉食獣に他ならなかった。
逃げようと思えば、転移の力で逃げられる。しかし、玲弥はその目から逃げられなかった。熱くギラついた強い眼差しが、玲弥を完全に捕らえてしまったのだ。

ドキリと心臓が音を立て、玲弥は下腹部に熱が溜まるのを感じる。そして、小さく頷いた。
その瞬間、勝呂は噛みつくようにキスをしてきた。強引に舌が咥内に割り入り、覆い被さるようにのし掛かってくる。


「んぁ、ふ、ぅっ、ん、」


すぐ耳もとで聞こえる水音に目を閉じる。あの硬派な勝呂がここまで求めてくることに動揺してしまう。それと同時に、どこか嬉しく思う自分もいた。先程、体よく扱うのではなく、真摯に接してくれたからだろうか。


「…ハッ、厭らしい顔しよって…覚悟せぇよ、滅茶苦茶に抱いたる」


耳もとで低く濡れたように囁かれる。あ、もうダメだ、と玲弥は考えるのを放棄した。勝呂に、すべて明け渡してしまう気になってしまったのだ。
答える代わりに、目の前のがっしりとした肩に額を擦り寄せた。勝呂はくっ、と笑うと、拘束していた手を解いて、玲弥の頭を柔らかく撫でた。
そんな優しさが垣間見えたのも一瞬で、その直後には強く腰が打ち付けられた。腹に響く衝撃に、声にならない声を上げてしまった。


「―――っ!!」


そして勝呂はまったく遠慮なく、腰を叩き付ける。何度も繰り返し、激しく穿たれる衝撃。そのあまりの強さに、生理的な涙が零れた。


「あっ!んっ、ぅあっ!ひ、っん!」

「はぁ…っ、…はっ、」


間断なく貪られ、勝呂の荒い呼吸が耳もとで響く。まさに、食われているようだった。


「ぁあぁっ、!ひぁっ!ちょ、あっ、!んっ、止まっ、ぁっ、れ!あぁっ!」


息も絶え絶えになりながら止まるよう懇願しても止まらない。勝呂は聞こえていないかのように腰を打ち続ける。
止まらない快感が頭をどんどん白くしていく。
もう、なにも考えられなかった。



***



もう何回したかも分からない。
何度も触られずにイってしまったというのに、勝呂は止まらずに腰を振り続けた。勝呂も何度か達していたのに、抜かずに続けたのである。

カウントもままならず、ようやく薬が切れたのか、疲労が勝ったのか、勝呂は達したあとに倒れ混んできた。
玲弥を押し潰さないようにしたのは本能だろうか。玲弥の左側に横になった勝呂と2人、もはやぜーはーという荒い息を響かせた。

喘ぎすぎて喉がイガイガとして、声も出しにくい。そして、全身が疲労で動かなかった。酸欠やら何やらで思考もぼんやりとしている。


「…はぁ、はぁっ…玲弥…」


すると、おもむろに勝呂は玲弥をかき抱いてきた。腕に引っ張られ、為すがままにその逞しい胸元に抱き込まれる。呼吸に合わせて揺れる胸板は、熱く湿っていたが、不快ではなかった。


「…大丈夫か……?」

「…けほっ、ん、まぁ、な」


何とか声を出して応じると、勝呂は抱き締める力を強くした。「そうか」と短く言って、沈黙が落ちる。
だんだんと互いの呼吸も落ち着いてくると、勝呂は玲弥の後頭部に手を回して抱き締め直した。


「…お前は、その…こういうこと、ようするんか」


そして訊ねて来たのは、一種当然の質問だった。序盤こそ手慣れていたからだろう。


「…自分からすることは、ない。そんなヤりたいとか思わねぇし…でも、任務に支障出なきゃ、襲われても抵抗しないな」


勝呂は何か言いたそうにしたが、飲み込んだ。その価値観は人によって違って当然だからだ。


「お前が…どこか、そういう自分のことに無頓着なことは…知っとったさかい、そないに驚かへんけど…」

「…引いた?」

「ちゃうわ。…せやけど、悔しい」


ぽつりと漏らした勝呂の言葉は 思い当たることがなく、腕の中で首を傾げる。困惑しているのが伝わったのか、後頭部に置かれた手が撫でてくる。


「……俺も、大勢の1人なんやって思うたらな。お前のこと、全然深くまで知らへんし、隣に並び立って戦うことすらできひん」

「まぁ…勝呂が求めるレベルにいる人なんて、藤本大尉くらいだけどな」


なぜこのように無頓着な性格なのか、誰でも受け入れてしまうのか、その価値観の背景にある玲弥の深いところをまったく知らないことが悔しいのだという。そんな感情抱くほどの人間じゃないだろ、とは言わないでおいた。
しかし、勝呂は諦めたわけでも悔しがるだけでもなかった。


「せやから、お前の深いとこまで、踏み込ませてくれへんか」

「へ……っ、」

「嫌なら嫌で、まったくかまへん。でも俺は…玲弥に、玲弥の心に、近付きたい。寄り添いたいんや」


少し体を離すと、勝呂はまっすぐこちらを見据えてそう言った。やはり、強く真摯な視線だった。
普通の奴は、ここで諦める。変に食い下がる奴は、その目的は違うところ、つまりは体や玲弥からの信頼というステータスが欲しいだけだった。
しかし勝呂は違う。ただ知りたい、近付きたい、寄り添いたい、それ以外の気持ちがなかったのだ。あまりにも、ストレートだった。

だから、玲弥は珍しく動揺してしまう。どうすればいいのか分からない。そもそもこんな風に動じているところを見せていること自体、ほとんど初めてのことだった。
思わず、目の前の胸元に額をくっつけて視線を逸らす。勝呂は何も言わずに頭を撫でてくれた。


「…後悔、すんなよ」

「そないなモンすんなら、最初から何がなんでも逃げとったわ」


あぁ、そうだったな、と抱き締められながら思う。ベッドの上に乗った最初から、勝呂は覚悟を決めていた。

玲弥は、ひとつの昔話を始めることにした。それは、遠いような近いような、過去の話。


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