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それからというもの、矛造は何かにつけて玲弥に絡んでくるようになった。心配してるだのなんだのと言っておせっかいを焼くのである。たくさんの兄弟の長男と聞いて納得したものだ。
ミャンマー騒乱から1年後、玲弥は大尉室で藤本とシュラにそのことについて聞かれていた。
「で?最近どーなんだよ、志摩少尉とは」
「…どう、とは」
「仲いいんだろ〜?」
にやにやとするシュラは19歳、矛造よりも年下だが、日本はつまらないと言って世界中の騎士團を転々としている。つい最近までアフリカにいて、来週から米国支部に行くことになっていた。
そんなシュラは、藤本の弟子として鍛えられてきたらしく、同じく藤本の下で様々なことを学んできた玲弥のこともよく知っていた。
「あちらからコンタクトを取られることはありますが、それを特にどう思うというようなことはないです」
「ったく、相変わらずだな…」
玲弥は感情を強く感じることがなく、心が波打たないため、人形のようだと言われていた。それについても特に何も感じない。
矛造のことだって、暇なのか、とかなぜ、とかというような疑問は抱かないでもなかったが、感情はとりたてて何かを感じている自覚はなかった。
「そんな玲弥に異動指令だ」
シュラの呆れる様子は予想通りだったのか、藤本は何を言うでもなくそんなことを切り出した。仕事のの話ならと玲弥は傾聴する姿勢になる。
「明日から葛城一等兵には第二中隊第一小隊に所属してもらう」
「…なぜ、でしょうか」
突然の部隊移動、その先は第二中隊第一小隊。志摩矛造が隊長を務める部隊だ。しかも、第二中隊は志摩家の八百造が中隊長をしている。部隊分けにはある程度のバランスはあるものの、基本的には無作為に振り分けられている。そのため、異動そのものに意味が見いだせなかった。
「そろそろお前は心を育てるべきだ。本当はもっと早くにそうしてやりたかったが、俺が日本支部の上層部に掛け合うのが遅れてな…悪かったと思ってる」
「心…それは任務に必要ですか?」
「あぁ、必要だ。チームワークだからな」
玲弥にはとてもそんなものが必要とは思えなかったが、大尉たる藤本が言うのであれば必要なのだろう。
「お、いいなそれ。志摩家の連中に揉まれてこい」
「こいつがあの連中とどう関わるのか見ものだな」
楽し気な2人に、本当に必要なのか?と疑いを濃くする玲弥であった。
***
それからというもの、玲弥はあくの強いメンバーとともに訓練や任務に励むこととなった。小隊長の矛造をはじめ、小隊には志摩家次男の柔造、四男の金造もおり、玲弥は志摩兄弟に散々絡まれた。
普通なら人形みたいだと遠巻きにするところを、志摩兄弟はズカズカと入り込んできては玲弥と積極的に関わろうとしていた。
だんだん誰が最初に懐かれるか、という勝負まで始め、そのおせっかいはさらに激化していた。うっとうしく感じてきた玲弥だったが、そうした心の機敏こそが、藤本が学ばせようとしていたことだった。
2023年9月には、パキスタン騒乱とアフガニスタン騒乱が同時に発生し、混乱の中で人質に取られた外国人の救出任務に小隊としてあたった。転移能力を持つ玲弥がごり押ししたところ矛造に叱られ、効率を求めただけの玲弥は理解ができず衝突した。
2024年2月に発生したエチオピア・エリトリア戦争においても、エリトリア沖で拿捕された日本の石油会社のタンカーを救出したが、そこでは柔造たちを庇うため自身で囮になった。それは志摩兄弟全員に怒られ、やはり理解できず玲弥は口論になった。
2024年年末から2025年7月にかけて起きた、ウズベキスタンとタジキスタン、キルギスとのアムール川紛争においては、矛造の命令から離れ単独行動をした玲弥がひとりでタジキスタンとキルギスの司令官を捕縛し、両政府に交渉を求めた。結果として、ウズベキスタンが両国に求めたアムール川の水源問題はタジキスタンとキルギスの妥協で解決したものの、ここでついに矛造と玲弥は藤本に呼び出されることとなった。