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あたり一面に砂埃が立ち込め、埃が喉に入って噎せる。パラパラと小さな破片がいまだ降ってくる小さな音がそこらじゅうに響いており、悲鳴とうめき声が満ちる。爆音で耳は水中にいるかのようだったが、傭兵としての慣れか、すでに治りかけていた。
素早くあたりを確認するのも癖になっていて、体に痛みがないのを感じ取ると起き上がろうとした。

しかし、上体は何かに阻まれて起き上がらない。何かと見上げれば、矛造が覆いかぶさっていた。


「矛造、さん…」

「…だい、じょう、ぶか…?」

「俺は、平気ですけど…って…え…」


矛造に怪我がないか体に目をやると、信じられない光景が飛び込んできた。
四つん這いになるようにして玲弥の上に覆いかぶさる矛造。その腹からは、赤黒く濡れた鉄骨が見えていた。それは肩越しに背中からも見えていて、形状からして窓枠だとすぐに分かった。そして、それが貫通していることも、すぐ理解できた。


「な、なにして…」

「いや、はは…つい体が動いてもうたわ…」

「…っ!!あんたバカじゃないのか!!」


つい怒鳴ると、急いで玲弥はその下から這い出た。そして、矛造をゆっくり横向きに横たえる。あっという間に地面には赤い水たまりが広がり、土色になった矛造の顔には脂汗が浮かんでいた。


「矛兄!玲弥!大丈夫か!」

「怪我ないか!」


そこへ、柔造と金造が駆け寄って来た。2人とも俊敏に瓦礫を避けながら向かってきているため、怪我はないのだろう。
そして2人は、倒れる矛造を見て息を飲んだ。


「なっ…!!」

「矛兄!!」


目を見開く柔造に、悲痛な声を上げる金造。2人のそんな表情は初めて見た。慌てて矛造の傍にかがみこみ、そのどうしようもない様子にいたずらに焦るのを見て、玲弥は冷静になる。

出血の様子からして、貫通は綺麗なものではなかったことが分かる。綺麗に貫通していれば逆に出血はあまりしないからだ。一度貫通してから、さらに瓦礫が鉄骨や体に当たったのだろう。それだけ、玲弥の頭上に多くのものが降り注いだということで、それをすべて矛造が受け止めたということだった。


「柔造さん、他の隊員は」

「へっ、他?矛兄ほど酷ないわ」


それはつまり怪我はしているということか。まともに動けるのは柔造と金造、そして玲弥のみ。


「…3人とも、よく聞いてください。今矛造さんを助ける方法は、ただひとつです」


慌てる柔造と金造はパッとこちらを見上げ、矛造もぼんやりと見てくる。


「俺が矛造さんを転移させることになるんですが、最寄りの病院で、難民でパンクしておらず、この状態の手術ができるのは、トルコのエルジシュかイランのタブリーズまで行かないと…」

「せ、せやったらすぐにでも…」


金造は食い気味に言うが、柔造は少し考えて顔を曇らせた。


「…どっちも、玲弥が一気に転移できる距離やない」

「そう、俺が単独でなら行けますけど、矛造さんと一緒に、となると少しずつ進むしかなくて…」


このとき、まだ玲弥は無制限にどこへでも何人でも転移できるというわけではなく、自分ひとりでなら200キロ圏内、複数人なら20キロが限度だった。自分以外となると途端に可能距離が縮まるのだ。


「直線距離でだいたい240キロくらいなんで、連続12回での移動です。矛造さんはあと持っても30分で失血死するんで、病院に着いてぎりぎりというところです」


「…うっ…それは、無理、やな…」


話し終えると、矛造は呻きながら苦笑する。金造は涙目でその肩に手を置く。


「無理てなんでや矛兄…」

「…玲弥は、もう今日散々力、使うてるやろ…それに、俺も玲弥もなしで、どないして任務すんねん…」


そう、まだ任務は終わっていない。他の隊員が動けない今、柔造と金造しかエレバンに残らないとなると、任務遂行に支障が出る。そもそも玲弥の体力がもつかも危うかった。
市内に拡散している他の小隊を待っていては間に合わない。


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