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「お前は、自分が不幸やと思うか?親を知らへんまま、ただ傭兵として育てられた境遇が不幸やったって、思うとるんか?」
「思ってない。俺は俺だ、不幸なんかじゃないし、人の幸福と俺の幸福は同じでなくていい」
「せやろ?…別に、お前が矛造と出会うまでの生き方は、良い悪いやなかったはずや」
確かに世間一般からすれば、親も知らないまま傭兵として、家庭や友人の温もりも知らないまま人を殺す術を覚えてきた人生は不幸なのかもしれない。しかし玲弥は人が言う「幸福な」生き方をしたことはないから比較できないし、そうするつもりはない。
不幸だとは思ったことはなかった。
「矛造はお前に、世間一般の幸福を教えたかったんやと思う。それは同情っちゅうより、きっと温もりを知ってほしかったんやな。真意は今はもちろん分からへんけど」
「…そうかも」
実際、玲弥はもう少しで明るい表情を作れるようになると言われた。きっと、仲間と過ごす楽しさだとか、人と時間を共有することだとか、そういう何気ない時間の暖かさを知ったからだ。
「せやけど、矛造は亡くなった。反動で感情をなくしたお前の自暴自棄な姿に、大尉たちは焦ったんやろうな、せっかくあと少しやったのにって」
「あのときの藤本大尉とシュラさんは、そういうこと話してたのか」
「たぶんやけどな…でもライトニングと戦ったり、柔造と関係作り直したりして、お前はお前なりに他人との距離の取り方を決めた。藤本大尉はそれに気づいて、お前が自暴自棄やなく自分で考えて決めたことっちゅうんで、それを尊重したんやろ」
少し気になっていたあの藤本の態度の違いは、そういうことだったのか、と玲弥は納得した。
どうでもいいと投げやりになっての敬語の乱れは、藤本たちを焦らせた。ともすれば玲弥が壊れそうだと思ったのだろう。
しかし、それから時間が経って、ライトニングや柔造との関わりのなかで他人との距離感を自分なりに決めた。
ここまで近づいてもいい、ここからはダメ、というようにだ。
そしてその距離感では敬語が敬意をともなわず、自然と今のようななけなしのレベルになったのだ。
それは玲弥自身で考えた結果だったため、藤本はそれなら大丈夫だと受け入れてくれたということだ。
「普通は、そういう距離感や人付き合いの仕方は、家族と教師っちゅう大人と、同年代の友達、それぞれとの関係で学ぶもんなんやろうな。生まれたからずっとここにおった玲弥は、限られたやつとしか関係を持てへんかったさかいに歪なやり方になってもうただけで、大まかには普通の成長の仕方やと思うで」
「…普通?俺が?」
「せや。普通に、子供が人付き合いを学んでく過程を、やたらダイナミックに紆余曲折しながら進んできただけや」
普通に育てられた勝呂だから分かったのだろう。つい最近まで外界にいたから、この歪な傭兵という集団で育った玲弥とそれを取り巻く大人たちとの関係性を客観的に捉えられたのだ。
「そっか…俺、普通に人間らしい生き方、してんだ…」
「せや。だから、ちゃんと友達作らなあかんなぁ。この先に進むには、やっぱ必要やで」
「友達…難しいな、他には?」
勝呂はなんでも知っているな、と思って聞いてみるが、勝呂は頭を抱える。
「他…?同年代の対等な関係いうても…あっ」
「なに?」
勝呂は何か思いついたらしく、玲弥は先を促す。勝呂は少し言いよどんでから口を開いた。
「…恋人、やないか」
「……恋人」
聞いたことはある。恋愛感情とやらを有する一組の人間のことだ。最近は性別を問わないという。
「…俺と勝呂は?」
「友達やろ」
「セックスしたのに?」
「っ!!」
そう、玲弥と勝呂と体を重ねた。それは友達というのだろうか。勝呂も気づいたのかハッとする。
「…お前は、どっちがええんや」
「いきなりだからな、なんともいえねぇけど…でも、一番近いのがいい。そんで、一番対等なの」
勝呂が言っていた、玲弥に対等な存在が必要なのだという話はとてもしっくりときた。
自分にも他人にも無頓着なのは変わらないが、しかしそれはいつまでも子供のままいていいということではない。
玲弥の生きる意味である傭兵の仕事にも、年齢に応じた態度や構えがある。ある程度、世間一般に相応する精神的成長をしなければ、傭兵として生きていけなくなるかもしれない。このことは最近の懸念でもあった。
「…せやったら、恋人や。あないに、ヤってもうたし…責任とらな…」
勝呂はだんだんと小声になったが、意を決したように言った。玲弥は勝呂が言うならと頷く。
「分かった、恋人だな、勝呂。よろしく」
「…こちらこそ…?」
ここに廉造でもいれば、2人にツッコミを入れることもできただろう。