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最後にやってきたのは小隊室だ。そこで廉造と子猫丸を呼び出すと、准大尉権限で勝手に借りた小会議室に入る。
もちろん、中の声は外に漏れない。
「坊に玲弥、2人揃ってどないしはったん」
廉造は改まった様子の2人にきょとんとする。子猫丸もよく分かっていないようだった。2人には勝呂が中心となって話すと言っていたため、勝呂にいったん任せることにした。
「実はな…俺たち、交際することにしたんや」
「へっ……」
まず子猫丸の小さな声が落ちる。その直後、廉造の叫び声が響いた。
「えええええええええ!?」
「やかまし、て言いたいけど、まぁしゃあない」
今回ばかりはとんでもない爆弾だと2人とも理解している。そのため、勝呂は仕方ないと廉造の叫びには咎めなかった。
「こ、交際て…あの坊が…」
「これは…夢…?」
子猫丸に至っては、現実かどうかから疑い始めている。「現実だぞ」とその触り心地の良い頭を撫でてやると、子猫丸はアワアワとしだす。
「ど、どないしはったんです坊…」
「よう聞いた子猫さん!」
単刀直入に聞いた子猫丸に、勝呂は頷いた。話すことは決めてあるようだ。
「いろいろあって、俺は玲弥をしっかり理解したいて思うた。そんで、玲弥の過去の話を聞いたんや。話聞くうちに、玲弥には対等な関係のやつが必要やて思てその話したら、玲弥に俺と玲弥との関係について聞かれてな。俺と玲弥はその…一回…いたしてるさかい、」
「えええええええ!?!?」
話の途中だったが、そこで今度こそ廉造は絶叫した。そして子猫丸はもはや理解できず首をかしげる。
「いたす…?」
「セックスやセックス!!」
「セッ……」
廉造が気にせず叫ぶと、子猫丸はおもむろに合掌した。
「解脱せぇへんと…」
「あかん!子猫さんが涅槃に行ってまう!!」
2人の混乱もひとしおで、一応収まるまで黙ることにした。沈黙は武器だ。なんやなんやと騒いでいた廉造と子猫丸も、黙る2人にようやく注意を向けた。
「坊…?」
「気持ち悪いて思うかもしれへん。せやけど、俺は本気で付き合うつもりやで」
「…坊、でも2人は互いに好き合うてるわけやないんですよね?」
廉造は落ち着いたのか、鋭い質問を投げかける。柔造の弟だけあって、やはり同じところに切り込んだ。
「それは、その通りや。それについてはさっき柔造にも言われてん。しっかり互いに向き合い、ていわれた」
「まぁ、それが正統やろうな…」
「ぼ、僕にはそういう話はまだ早いいうか、ようわかりませんけど…お二人がいいならそれでいいです。でも、後悔だけはないようにしたってくださいね」
子猫丸は、よく分からないなりに2人の誠意に向き合ってくれた。きちんと2人のことを案じて、混乱から抜けきってはいないだろうが、言葉をくれた。それだけで十分だ。
「ちなみに坊、俺が玲弥のこと抱いたらどないします?合意の上で」
「あ?許すわけないやろ、ぶっ飛ばすで廉造」
すると廉造はそんなことを聞いた。勝呂は即答し、まだ何もしていないのにドスの効いた声で脅した。
「こわぁ…せやけど、うん、坊がそないなこと即答するんやったら、何も思うてないわけやないんやね」
「なんの話や」
「なんでもあらしまへんよ〜。まっ、あとは2人の問題やさかい、俺はこれ以上は干渉せんでおきます。見守るくらいはするんで、気張ってくださいよ〜」
廉造はなにやら自己完結すると、子猫丸同様2人に任せると言って手をヒラヒラと振った。
とりあえず、これで全員に確認はしたことになる。だが、あとは2人で話し合え、とは具体的にどういうことを話せばいいのだろうか。
それは玲弥にも勝呂にも分からないまま、大戦の戦局は否応なしに日本を覆おうとしていた。