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「ミサイル、大気圏再突入。…1発迎撃」
放たれた迎撃ミサイルが、大気圏に突入する弾道ミサイルをひとつずつ捉えていく。12発のうち、すでに3発が迎撃された。
「4、5発目。今のところ高高度核爆発は起きていません」
「核弾頭は載せていない可能性が高いな」
「いよいよ上陸って感じっすね……」
これから上陸する地を放射能で汚染するわけにはいかない。おそらく、すべてのミサイルに核弾頭は搭載されていないのだろう。
「……10発目迎撃。佐世保からは、特に化学反応は検出されてねぇっすね」
「化学弾頭もない、となると本当に陽動みたいなもんだな」
「……あっ、まずい、11発目は撃ち落としましたけど、最後の一発がもう高度40キロ切ってます」
「ちっ、どこだ」
「……福岡、です」
その次の瞬間、画面に表示された福岡市の映像に強い光が差した。福岡タワーや福岡ドーム、博多市街地のビル群にはっきりと影が伸びる。
「核か!?」
「いや…これは、液化燃料弾頭です」
玲弥は、映像の市街地上空に一瞬で広がる白い雲にすぐに気づいた。広がる過程などほぼ見えないほど、青空が一瞬で雲に覆われる。その直後、雲の内側から黄色と赤の混ざった光がせりあがってきて、雲が一瞬で炎の塊に変わった。
自由空間蒸気雲爆発。弾頭に搭載された酸化プロピレンなどの液体燃料が、急激な圧力と温度の変化によって気化して大気中に飛び出すことで一瞬で巨大な雲を形成し、それが着火して大爆発を起こす現象だ。
高度での爆発によって、その爆風は長く、猛烈な風となって地表にたたきつける。竜巻など比にならないような風速だ。今回でいえば、高度40キロ分の空気の厚さだけ爆風が空気の塊となって福岡市街地に吹き付けることになる。
爆発はもとから浮いていた雲をかき消すと、市街地を一瞬で土煙の中に閉じ込めた。爆風が煙の広がりによって目に見える。タワーやビル群のガラスがすべて割れて風とともに地上にたたきつけ、ドームの天井が押しつぶされる。博多繁華街の看板や車などが道路を飛んでいき、住宅街や商店街から同時多発的に火が噴き出す。その火は爆風に乗って拡散していき、次々と延焼していく。
爆風そのものはすぐに台風レベルにまで遅くなったものの、その風はやまず、火炎とガラス片の嵐となった。
ほとんどの住民が地下に避難しているはずだし、核爆発でもないのであればシェルターは爆風の影響を受けない。しかし、間に合わなかった者はいるはずだ。
何より、暗くなった画面の向こうには、すべての生活の基礎を失った廃墟の街が広がっている。爆発とともに地上にはそれなりの量の液体燃料が雨や霧となって降り注いでいる。酸化プロピレンなどは殺虫剤に使われるようなものであるため、殺虫剤の雨が降っていると思っていい。
住民の生活は、もう元通りにはいかないだろう。
基地内は静けさを保っていた。初めて日本が経験する出来事に、慣れた傭兵たちでも呆然としているのかもしれない。
先の金沢戦では、弾道ミサイルはすべて迎撃され、市街戦にはなったもののすでに復興はかなり進んでいる。一瞬で廃墟と化した福岡の姿は、今まで遠い外国で、もしくは遠い過去の日本で起きた出来事でしかなかったはずの光景だったのだ。
「……っ、佐世保から連絡、五島列島東海上、長崎沖に国籍不明の輸送艦と輸送機が高速接近」
「上陸は長崎か…!いくぞ、玲弥」
「了解」
「総員転移準備。これより長崎市に転移する」
玲弥はネームタグを握りしめる。一矢報いるときだ。