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日本全国の主要都市には、緊急時における騎士團の駐屯施設に指定された場所がある。
長崎県、長崎市、および日本政府からの速やかな出動依頼と、長崎市における緊急事態の布告にともなって騎士團の正式な移動が許可された。
それと同時に玲弥は転移を行い、特科大隊80名の転移を行った。
一般科すでに佐世保基地から西海市に入っている。
転移先は長崎市南部に位置する西泊地区の高台にある中学校だ。外海と長崎湾とを隔てる半島のほぼ中央にあり、長崎市街地防衛の最終防衛ラインにあたる。
突然校庭に一斉に出現した特科大隊に、学校から北側の稲佐山地下に設置された上陸時避難シェルターへ移動しようとしていた人々がぎょっとする。
誘導する役場の職員も、予定通りとはいえ驚きに目を見張っていた。
指揮官である藤本が学校の校長と役場職員のところへ向かう一方、隊員たちは訓練通り校舎に入り宿営地とする準備を始める。玲弥は藤本とは別に、国防軍との無線連絡を開始する。
「こちら正十字騎士團日本支部特科大隊准大尉の葛城だ。西泊宿営地に到着。敵軍についての情報を求む」
『こちら国防海軍佐世保基地司令部。敵ステルス潜水艦と思われる海流の変化を観測、角力灘に向けて航行中。御岳、舞岳、福田、稲佐山、神の島固定砲台を稼働し迎撃態勢を展開している』
「了解、こちらもこれより……」
玲弥が返答しようとしたとき、突然西の海上から遠く轟音と立ち上る煙が山越しに見えた。煌々と輝きながら空に向かっていくそれは、どう考えても潜水艦から発射されたミサイルだった。
「なっ!?嘘だろ…っ、こちら葛城、佐世保基地、応答願う!」
『……ざい……中……だ……』
「ちっ、ジャミングかっ!」
ジャミング電波による通信妨害だ。かなり強力らしい、どの回線もつながらない。
すると、北側の稲佐山の斜面やもう少し離れた福田地区の方から同じく地対空ミサイルが放たれる。だが、今から撃っても届くわけがない。
「バカか…っ、藤本大尉!!」
慌てる校長たちのところから駆け寄ってくる藤本に、玲弥もすぐに近寄った。校舎の窓からは、ミサイルの発射音を聞いた隊員たちが顔を覗かせていた。
「玲弥!何が起きてる!」
「潜水艦からのミサイル発射としか…佐世保とはジャミングで連絡不能になりました」
「くそ、それだとほかの固定砲台ともやり取りができねぇぞ…一般科もどこにいるのかすらわかんねぇのに」
珍しく藤本は焦ったようにしていた。高高度核爆発が起きていないため、通信をやられるとは思っていなかったのだ。先進国である日本がジャミングによって通信を阻害されるとは。
「それだけ戦争慣れしてないってことっすね。まずは…」
言いかけた玲弥だったが、かなり北の方からズン、という重い音が響いてきた。雷のようだ。これは、ミサイルが着弾した音である。
「…まずは、感応能力者を三重のあたりに送って偵察したほうがいっす」
「そうだな、よし、蝮を連れてけ」
「了解」
玲弥は校舎に走ると、二階の窓からこちらを見下ろす姿の中に子猫丸を見つけて呼びかける。
「子猫丸!蝮さんとチャンネル繋いどいて!」
「へ、あ、了解しました!」
思わず敬語になってしまっている子猫丸にほほえましく思いながら、玲弥は転移能力で自身の目の前に蝮を転移させた。
「っ、あんたか…」
「手荒な真似してすみません、でも事態は急です」
「わかっとる、はよ行くで」
感応能力として蝮をこのように急に呼び出すことはないわけではないが、いきなり転移するのはいい気分ではないだろう。
しかし上陸を間近に控える今は、そうも言っていられなかった。
2人は西泊から北にある小規模な港湾市街地、京泊地区の西にある三京町地区に転移した。その中学校の校庭に着地した2人は、すぐにうっすらと煙の臭いをかぎ取り、悲鳴が市街地に響くのを聞いた。
中学校からすぐ西側にある御岳からは、真っ黒な黒煙が上がっていた。
今度は東を向いてみると、京泊地区と飯盛岳を挟んだ向こうにある舞岳からも煙が上がっていた。
「蝮さん、子猫丸に連絡。御岳、舞岳の固定砲台はおそらくミサイル攻撃によって壊滅」
蝮がそれを子猫丸に向けて感応能力で復唱しているのを横目に、玲弥は校舎の屋上に転移する。
より見えやすくなった市街地を見下ろすと、まだ避難していなかった人々が逃げまどっているのが見えていた。おおかた、こんな田舎に攻撃はないと避難していなかったのだろう。こちらも予想外だが、ここまで来れば玲弥には何を敵が目論んでいるのかは分かった。
その予想通り、京泊地区の港湾には、小さな潜水艇が浮上し、中から銃火器を携えた二足歩行のロボットが出てきていた。直接海の中から這い上がってくる四足歩行のものもある。
さらに、空を裂くような轟音とともに飛来してきたのは敵の輸送機だ。
玲弥は校庭に降りると、市街地からの機械音で何が起きているのか察している蝮にさらなる指示を出す。
「あの輸送機に意識向けて、あれがどこで中のモン下したか教えてください」
「了解」
蝮は意識を集中するため目を閉じる。そこへ、斜面の下から車や走る人々が次々と校庭に入ってきた。
市街地からは銃撃音が聞こえる。逃げ惑う一般市民への攻撃だ。敵は非戦闘員を殺さないという国際法を知らないらしい。