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知らず舌打ちをする玲弥だったが、軍服に気づいて駆け寄る市民にも面倒だな、と内心感じた。


「あれは騎士團の傭兵や!」

「た、助けてください!!」


ほとんどが老人だが、赤子を抱えた女性や子供たちの姿も見える。


「……シェルターへ。動く方が危険です」


少し冷たい声に、人々は気おされて頷く。国防軍や警察と違いあくまで傭兵、その雰囲気は公僕のそれとはまったく異なるだろう。


「ここから2,3キロ北で相当な量のモン投下したで」

「北……琴海村松町あたりか。蝮さん、藤本大尉に連絡。現在敵は京泊地区および琴海村松町地区に上陸している。敵の目的は西彼杵半島の分断だと思われる。長崎市防衛となると、時津、西浦上、小江原、滑石あたりでの深刻な市街戦は避けられない」


熊本県の東側にある有明海と東シナ海との間には、多良山系が佐賀県の南から突き出す。その多良山系の南端には諫早市があり、ここから南東に島原半島、南西に長崎半島と西彼杵半島がそれぞれ海上に突き出している。
長崎市はこの長崎半島と西彼杵半島の大部分にわたって市域が広がる。

このうち、西彼杵半島の最も細い部分が、京泊地区と琴海村松地区をつないだラインになる。
このラインのすぐ南側には、時津、浦上、長崎と市街地が細い平野に連なっているため、防衛が難しいのである。

一国の首都をかつて単独で解放した経験のある玲弥は、藤本にこのライン構築を防ぐよう言われてもいいように中学校に留まっている。
しかし、玲弥の言葉を伝えた蝮は意外な言葉を藤本から伝えた。


「西海市の七釜郷と平山郷でも同じような上陸らしき動きがあると、ジャミングの隙間を縫って連絡があった、国防軍は撤退して佐世保防衛にあたり、西海橋は爆破したて」

「……は?」

「国防省、日本政府、内閣府、長崎県および米軍は、現時点をもって長崎市と西海市と放棄する、特科大隊も長崎空港へ撤退、やって……」

「……市街戦による人道危機を防ぐための戦略的撤退、実情は想定外の上陸に慌てて体制を立て直すための時間稼ぎってとこか。情けねぇな」


玲弥はそう呟くと、学校の地下シェルターに逃げ込んでいく人々を見やる。彼らを助け出すのにどれくらいかかるのか、見当もつかなかった。



***



その後、玲弥たちは指示通り西泊へ戻ると、さらに特科大隊全員を長崎市の北に広がる大村湾に浮かぶ長崎空港へ転移させた。
多良山系の西側の大村市のさらに西側、大村湾の島をまるまる空港としているが、非常に小規模な空港だ。対岸の大村市街地には、国防空軍の基地もある。

搭乗ゲートの待合ラウンジに特科大隊の隊員たちは待機している。ジャミングは復旧したが、ラウンジのテレビには大混乱に陥る九州北部の様子が映し出されていた。
まず福岡市中心部は、弾道ミサイルの爆発によって博多など都市部が壊滅。住宅街では大規模な火災が発生しているほか、シェルターを出てしまった人々が酸化プロピレンによる健康被害を訴えていた。
シェルターから中継するメディアは、連絡がつかない家族や友人を思い泣いている人々の姿を繰り返し流した。
一方長崎県では、放棄された西彼杵半島と長崎半島から動ける人々が船に乗って次々と大村湾を渡って対岸に避難している様子が映された。半島と本土を北で結ぶ西海橋は崩落させられているため、米軍と海軍による避難作戦が行われていた。長崎市は港から上陸されているため、時津方面から大村湾へ逃れる住民や車を使って陸路で東の諫早市方面へ逃れる人々などが道路を埋め尽くす様子が報道された。
緊急事態の布告にともなって、すべての公共交通機関が停止していることもあり、北九州市や大分市では四国や山口県へと逃れようとする人々で混乱している。


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