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空港の会議室にて、騎士團の特科大隊隊長である藤本と准大尉として玲弥、そして一般科の隊長、補給科の隊長と計4人と、国防軍、米軍、日本政府の代表、そして長崎県、熊本県、佐賀県の知事が集まった。そこでは今後の作戦についてまとめられ、ほぼ騎士團と国防軍の口論が折衷案として反映された。
藤本はきっと、内心で無能のくせにでしゃばるなと国防軍に対して思っていることだろう。

会議ではまず、九州地方北部に3つの防衛線を引いた。
第一防衛線は敵に明け渡した西彼杵半島と長崎半島を囲う線だ。北は佐世保湾、南は天草湾、東は半島の付け根部分である。
半島付け根は喜々津・矢上ラインと呼ばれる。

第二防衛線は平戸、多良山系、島原、天草をつなぐ。そして第三防衛線は唐津湾、有明海、八代海をつなぐ線である。
この第三防衛線を突破されれば、そこはもう熊本市街地と筑紫平野だ。絶対に超えられるわけにはいかなかった。

今後の方針としては、早急に占領された西彼杵半島を奪還しなければならないが、また潜水艦で兵力を送り込まれれば長期化しかねない。そこで、最新の米軍の哨戒艦によって、五島列島と甑三島の間の海に接近する敵影を掃討する「双肩の島作戦」が実施されることになった。

これによって敵戦力の増強を防ぎつつ、長崎解放作戦に移り、短期決戦で敵を放逐しようというものだ。
しかし、この作戦には大きな問題点があった。


「それでだ。我々騎士團には……西海橋での防衛を任された」


ラウンジにて、全員が集まる前で藤本が言いにくそうに作戦を伝える。それを聞いた隊員たちは一瞬ぽかんとしたあと、大きくざわついた。
西海橋は長崎市街地から北に30キロは離れており、西彼杵半島の北端と本土とを繋ぐ橋だ。すぐ近くに佐世保基地があり、米軍がいるため防衛に差し支えない。
これは、長崎解放を手柄としたい国防軍の下心が透けて見えていた。

しかしすぐ近くに国防軍がいる手前、「本当にできるのか」などと大っぴらに言うことはできない。

解散したあとも押し殺したようなざわめきがラウンジを支配するなか、玲弥は第三小隊のところにやってきた。少し休憩だ。



「……玲弥」


どうやら勝呂だけがいるようで、ほかのメンバーは昼食か何かで出払っているようだった。
空港特有の黒い長椅子に座る勝呂は、歩いてくる玲弥を見てその隣に置いていた荷物をどける。さりげない挙動が勝呂の細やかな気遣いだった。


「……国防軍は何を考えとるんや」

「面目と利権、勝呂が思ってる通り。金沢での戦いで騎士團が防衛しきった話は国民の間で有名だから」

「そないなことが大事なんか!?もう1万人は九州だけで死んどるんやぞ!何のための公僕や…!」


憤る勝呂に、玲弥は「そうだね」としか返さなった。少し、危険な考え方だ。
傭兵は雇い主の味方であって、正義の味方ではない。それをわかっていないと、動けなくなってしまう。勝呂のこういうところは嫌いではないのだが、傭兵として、玲弥は賛同するわけにはいかなかった。



***



翌日、国防軍による長崎解放作戦が始まった。喜々津・矢上ラインを越えて長崎市街地に国防陸軍と空軍が展開し、角力灘に海軍が展開する。
市民はシェルターに籠り、敵もさすがにそうした市民をいたずらに殺すような弾の無駄遣いはしなかった。

しかし、いざ作戦が始まると次々と国防軍は敵によってロボット兵に駆逐されていく。もともと専守防衛であるため、AI搭載の攻撃用ロボット兵を国防軍はあまり有していないからだ。
人の手が主力であるため、AIの前になすすべもなかった。

さらに、どうやら情報が漏れていたらしい。
敵の潜水艦はいつの間にか橘湾におり、矢上地区へ兵が上陸、早々に喜々津・矢上ラインは突破され、諫早市に侵攻された。
国防軍が奪還に失敗した稲佐山砲台から長崎空港へとミサイルが放たれると、長崎空港は崩壊、大村市へと敵は進軍した。
一方、警戒されていたのだろう西海橋へは何の侵攻もなかった。敵潜水艦は島原半島沿岸の有明海に入り、あっという間に第三防衛線まで到達されてしまった。
熊本市や佐賀市の沖合に停泊した米軍や海軍の戦艦によってそれ以上の侵攻はなかったものの、長崎市街地に展開していた陸軍は玲弥が転移能力によって救出し、作戦は失敗どころか長崎県のほぼ全域を占領される結果を招いたのだった。


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