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翌日、玲弥は東京奥多摩町の山間部地下にある正十字騎士團の日本支部にて、特科大隊に宛がわれた区画の最奥、大尉室にいた。洋風のシックなインテリアに飾られたその部屋に鎮座するデスクで座るのは、老眼鏡をした渋い中年の男。煙草を吸い、机には焼酎のビンがある。
正式な服装である、ネイビーの詰め襟の上着を着ていなければヤクザに 見えただろう。

その男の前に立つ玲弥は、呆れたようなその視線を受け流し続けていた。


「…またか、玲弥」

「…たった1発で、全壊すんのが悪い」

「あのなぁ…!」


男、藤本獅狼は困ったようにタメ息をつく。こう見えて、この特科大隊を率いる大隊長を勤める、大尉だ。


「戦後にどれだけ金がかかると思ってんだ。勝てばいいってわけじゃねぇんだぞ」


さらにこう見えて、普通に正論で諭してくる。腐っても大隊長なだけある。


「おいお前今失礼なこと考えてるだろ」

「被害妄想っすね」

「殴るよし殴る」


がた、と立ち上がった藤本に後ずさると、ちょうどそこへ扉が開き誰かが入ってくる。


「おーっす」

「おいシュラ、ノックしろっつったろ…」

「にゃはは、忘れた〜」


入ってきたのは霧隠シュラ中尉、第三中隊を率いる。藤本の弟子らしく、その強さは正直大尉であるべきだ。この支部には特科大隊が1つしかないため仕方ないが。


「おっ、玲弥じゃん。昨日はサンキューな」

「高くつくんで」

「ほれこれやる」


シュラは机の上の焼酎を勝手に取って渡してきた。藤本は「おい」と止めている。


「いやそれ大尉のじゃねっすか…つか俺未成年…」

「ん〜?聞いてるぞ〜?第二中隊の連中と呑んでそれはそれはカワイイ酔い方したそーじゃん」

「チッ、あのタレ目猿ども…」

「おいなんだぁそれ俺聞いてねえぞ、うし、飲むか」


シュラのニヤニヤとした顔に、藤本は面白いことを聞いたとばかりにニヤリとする。師弟よくお揃いなことだ。


「やかましいわ…早く本題入ってくださいよ…」

「おー、そうだったな」


市役所を全壊させてしまう程度なら、正直玲弥にはよくあることだ。毎度それで小言をもらう。しかし今日はシュラまで呼んで、何か用があるはずである。
藤本は座り直すと、真面目な顔になる。仕事の話だ。シュラも玲弥も気を引き締める。


「極東戦争が始まってから、まだ半月と経ってねぇ。なのに、すでに日本海戦線は北陸まで到達した。南シナ海紛争と第三次インドシナ戦争で日本本土の米軍が駆り出されていたからとはいえ、国防軍が脆弱過ぎる。俺たちの役回りは、かなりでけぇモンになりそうだ」



2029年のちょうど5月、第三次世界大戦が始まった。

前年の2028年にイラク共和国北東部でクルド人たちが独立宣言を発表し、クルディスタンが成立してから緊張は一気に高まっていた。
そんな中で2029年4月、シリアで独裁政権がついに崩壊してスンニ派過激派による政権が誕生。直後にクルド人の拡大を懸念するトルコがイラクとクルディスタンへと攻撃を開始すると、イラク国内でクルド人やスンニ派に利権を握られたシーア派を助けるためイランもイラクへ派兵、イラクのスンニ派政権を助けようとサウジアラビアとシリアが派兵すると、5月、第二次イラク戦争が勃発した。
シリアはさらに、占領され続けるゴラン高原奪回のためイスラエルへ侵攻、レバノンのシーア派組織ヒズボラとシリアのスンニ派過激派政権を潰すべく、イスラエルは一気にレバノンからシリアへと侵攻した。
こうして拡大した戦争をまとめて第五次中東戦争という。

この状況に、ロシアは同盟国イランと、イランと利害をともにするトルコと6月に3か国同盟を締結。EUとアメリカは厳しい経済制裁を3か国に課すも、トルコとロシアは地中海に軍艦を派遣して内紛が続くキプロスを11月に占領、そこからシリアへのミサイル攻撃を開始した。
中立国である上にEUに加盟するキプロスへの暴挙、さらにギリシャの哨戒艦をトルコが撃沈すると対立は激化した。こうして欧米は最後通牒をつきつけたが、12月にロシアは内戦の続く東ウクライナ併合という形で返答してみせた。
そして年末、開戦を予期したロシアとトルコは大規模な先制攻撃を行い、ロシアはポーランドとドイツの米軍基地にミサイル攻撃をして、バルト3国を占領。さらにEUがパニックに陥った隙に西ウクライナとポーランドを占領し、コペンハーゲンを占領して人質にとった。
2030年1月に入るとトルコがギリシャ、ブルガリア、ルーマニアを占領してロシアに合流し、チェコ以南の国に対して欧米の軍を国内に通さないことを条件に攻撃しないことを約束した。
かつてのトルコ周辺での東方問題をもじり、この戦争を東方戦争という。

その翌2月、中東戦争に明け暮れるイランに対し、スンニ派過激派組織が政権を握るアフガニスタンとパキスタンが攻撃をしかけた。
イランはこれを撃退すると、パキスタンとの間で領土問題を抱えるインドと同盟、従来からインドはロシアと仲が良いため、多くの助けもあってパキスタンとの係争地カシミールへ侵攻した。3月、カシミールの領有を狙いパキスタンと同盟する中国がこれに反発しインドへ侵攻、第五次印パ戦争と第二次中印戦争となった。
インドは独立を求める中国のウイグルとチベットに支援し、中国での内戦を引き起こさせた。これらをすべてまとめて中央アジア戦争という。

一度ここで、中国とインドの同盟国ロシアが戦争しないよう不可侵条約を結び、同様にイランと対立するアメリカがその同盟国インドと不可侵条約を結んだ。

中国はこれに安心すると、インドに空母を送るため4月より南シナ海の基地に派兵。これを期に南シナ海を取り返そうとベトナム、フィリピン、アメリカが南シナ海へと侵攻、南シナ海紛争となった。
アメリカの同盟国である韓国と安保法のある日本も加わらざるを得なくなり参戦することになった。

これが先月のことだ。
そうして今月5月のはじめ、中国はASEANの中国に従属する国であるラオスとカンボジアを使い、ベトナムのハノイ、フエ、ホーチミンへ同時侵攻を行い、第三次インドシナ戦争を開始した。同様に北朝鮮を使い、韓国と日本への攻撃を始めたのである。
これらの戦争をまとめて極東戦争という。


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