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「昨日もさっさと国防軍が撤退しやがったから玲弥に手伝ってもらったわけだしにゃあ」
「つか、あんたが行けば良かっただろ。俺より強いくせに」
「いやぁ、准大尉殿には敵いませんて〜」
けらけらと笑うシュラだが、これ以上は玲弥も言い返せない。それを分かってシュラはからかってくる。
「代わりに玲弥が中隊長やるか〜?そんであたしが准大尉!同じSSランクなんだから」
「…くそ、今がベストなのがむかつく…!」
SSランクとは、特科大隊の隊員たちが持つ能力値の最上位である。
そもそも正十字騎士團とは、国際的な傭兵組織だ。本部はヴァチカンにあり、世界中に支部がある。普通の兵である一般科と補給科、後方で仕事をする技術科と情報科、そして特殊能力科と分けられる。
特殊能力科は略して特科と呼ばれ、その名の通り特殊能力を持つ兵で構成される。能力者の存在は、世間の公然の秘密というやつで、どこの国も公にしていないが、そういう人間がいることは誰もが知っていた。しかし実情は一切分かっておらず、ただ存在する、としか人々は知らない。
そんな能力者を太古の昔から保護し調査してきたのが正十字騎士團である。中世ヨーロッパの時代には傭兵として能力者の貸出を行い、やがて普通の兵も雇って大規模な組織となっていった。今は能力者でない傭兵が圧倒的大多数を占めるものの、能力者研究と組織化されたものとしては右に出るものはいない。
分かっている中で、能力は11確認されている。火炎能力、水氷能力、雷電能力、緑化能力、風気能力は分かりやすい元素系で、文字に現されたものを操り生成できる。
また、運動能力、回復能力、感応能力は人体の運動神経や自然治癒、五感などが優れているため、身体系といえる。
特殊系として念動能力と傀儡能力があり、いわゆる念力やサイコキネシスと呼ばれるもの、相手の精神を乗っ取るものである。
これら10の能力のどれかを能力者は保持しており、元素系が最も人口が多い。逆に特殊系は滅多に見られない。
そして最もレアなのが、玲弥の転移能力である。いわゆる瞬間移動というやつで、自分や任意のものを一瞬で動かせる。実はこの転移能力は、玲弥以外にいまだ見つかっていない、世界でただひとりの能力だ。そのせいで本部に拉致されたこともある。
正十字騎士團では能力者の力の強さを強い方からSS、S、A、B、Cと分けており、SSランクはSランク級の力を持ちなおかつ2つ以上の能力を保有する者である。複数のうちどれか1つがSランクであればよく、他の能力のランクは問われない。玲弥も藤本もシュラもSSランクだ。というか、日本にはこの3人しかSSランクはいない。
玲弥は転移能力の他に運動能力をもち、どちらもSランクである。
一方のシュラは運動と風気でどちらもSランク、藤本に至っては運動と風気と火炎で、いずれもSランクだ。玲弥は攻撃力が決定的に足りないのに対して、2人は化けもののように強い。
しかしこのランクは兵としてのランクとイコールではない。階級は上から大尉、中尉、少尉、一等兵、二等兵、三等兵となっており、大尉が大隊長を、中尉が中隊長を、少尉が小隊長を勤めるようになっている。
特科大隊の場合、大隊長は3人の中隊長を率い、中隊長はそれぞれ3人の小隊長を率いる。各小隊は平均して10名前後の一等〜三等兵で構成されている。
日本支部には特科大隊がひとつしかなく、小隊が9あり、合計84名が所属する。だいたい人口1億人に対して100人もいないくらいが能力者の割合だとされているため、ほとんどの日本人能力者が騎士團にいることになる。
そして藤本大尉がその特科大隊のトップだ。シュラは中尉であり、3つの中隊のうち第三中隊を率いている。
玲弥の肩書きは准大尉だが、これは実は世界でも玲弥しかいない。それは決して、プラスの意味ではない。
「実力はあるのにやる気がないから准大尉だもんにゃあ、不名誉職極まりない!」
「やかましいわ…!」
そう、玲弥はとても隊員を率いることなどできないし、したくない。確かにSSランクだが、できれば動きたくないし、戦いたくない。そしてやる気もなければいつも眠たく、隙あらばどこでも寝る。何もかも無頓着で、ずぼらで、適当。
だから、少尉以上にするわけにはいかず、かといって一等兵にしても少尉がSSランクなど扱いきれないため一兵卒も無理。そうなると、適当に准大尉というのをつけて、いざというときの大尉の補助という役職に充てたのだ。ただ、おかげで藤本以外の言うことを聞く必要がなく戦場で自由に動けるのは良かった。
「お前こんな美人のくせして、そんなだからなぁ。ちったぁ笑って愛嬌見せりゃ皆ついてくるのによ」
「できたら苦労しねっす。…別に、可愛いげとかいらないでしょ」
「そういうとこ可愛いけどな」
無言で睨めば、藤本は苦笑して話を戻した。
「そういう大変なときに、第三中隊第三小隊の子供らを調教してやる人手も時間も足りねぇ。そこで、だ」
シュラは察したのか楽しげにし、藤本はニヤリとこちらを見据える。嫌な予感しかしない。
「葛城准大尉、貴官にはしばらく第三中隊第三小隊と任務を共にしてもらう」
あぁ、やっぱりろくなことじゃなかった。
玲弥はそう思いながらも、渋々敬礼をして「拝命いたしました」と言うしかなかったのだった。