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第三小隊を乗せたバンは国道34号に入り、まっすぐ長崎市街地に進入した。山間から見える市街地に特に変わりはない。
斜面を降りていくと、子猫丸が感応能力を活動した。日本人ではない生体反応が集中する場所を探るのだ。意識を研ぎ澄ませる子猫丸を邪魔しないよう、沈黙が車内に降りる。
「…あっ、反応ありました!8時の方向に650メートルほどです!」
「長崎市役所ですね」
子猫丸の正確な探知に、雪男は素早くそれが市役所だと突き止める。
すると北のほうから銃撃や砲撃の音が小さく響き始めた。戦闘が始まったのだ。
第三小隊も市役所近くの小学校に車を止める。
「こちら第三中隊第三小隊、これより市役所の制圧を開始する」
『こちら司令部、了解』
雪男が司令部に連絡を入れると、第三小隊は車を出て素早く建物の影に隠れる。おそらく、バンの接近には気づいているだろう。戦闘開始とともに、敵も警戒を強めているはずだ。
「三輪君、屋内の敵の分布は」
「そ、それが、地下から日本人反応が地上部に…!」
「人質だな」
玲弥はすぐにそれがどういうことか察した。恐れていた事態に、メンバーの顔が強張る。しかし、予想していたことでもあった。
「子猫丸、人質はどこにいる?」
「えと…1階におります」
「分かった。俺が人質を学校敷地内に転移するから、確認しだい突入」
「わかりました」
雪男が頷く。突入は彼に任せ、玲弥は転移した。
一瞬で回りの景色は、雑多な市役所の受付ロビーに変わる。壁のポスターやリノリウムのさびれた廊下など、どこか懐かしさを感じるようなよくある役所施設だ。
その中央に、大勢のシェルターの避難民が集められていた。肉の盾というやつだ。周りを囲む敵の兵士たちは銃を構え、ヒト型ロボット兵が周囲を警戒する。
そんなところに、いつもの白いTシャツに黒いベストとズボン、キャップ、揺れるサスペンダー、フィンガーレスのロング皮手袋という白黒の恰好をした少年が現れたのだ、目立たないわけがない。
しかし突然のことに、生きている者は茫然とする。
直後、玲弥は施設内にいた人質と、ついでに地下シェルターにまだ残っていた人々を第三小隊が控える学校の校庭に転移した。合わせて玲弥も校庭に移動すると、いきなり土に降り立った人々は軽い悲鳴を上げてよろめいた。
ざわめく人々に、バンを運転していた補給科の傭兵が誘導を開始する。校舎内に避難させるのだ。
一方、第三小隊は雪男の先導で一気に市役所に走り始めた。その後ろに玲弥も続き、拳銃を構える。
「三輪君、まだ日本人はいますか!?」
「おりまへん!クリアです!!」
「うし、じゃあ遠慮なくぶちかませるな!!」
燐は剣を抜いてニヤリとする。雪男が一応たしなめるが、聞いてはいないだろう。
桜町通りと市役所通りが交差する場所に面した5階建ての市役所が見えると、窓から敵ロボットによる銃撃が始まった。すかさず廉造の念動で浮いたバスとしえみの植物によるバリケードが弾を防ぐ。その後ろから、コントロールが可能な出雲の氷の柱が窓に向かって飛び、ガラスを突き破って室内の兵ごとなぎ倒す。
ぎりぎりまで近寄ると、廉造はバスを1階の入り口付近で置き、隊員たちはエントランスに向かってバスの後ろから攻撃を開始した。
勝呂の雷撃、出雲の氷、燐の火炎、雪男と玲弥の銃撃が、エントランスのガラスを砕き、室内に吹き荒れる。
壁や柱、床、天井の表面が崩れて散乱し、ポスターや書類が宙を舞う。照明のガラスが割れて飛散し、ロボットが破壊された破片が飛び散る。燐の炎に反応したスプリンクラーが作動して水が噴き出すと、勝呂の雷撃によってロビーにいた生身の兵士たちは瞬く間に感電して意識を失った。
意識のある者が室内にいなくなったところで、玲弥たちはロビーに入った。砕けた床には様々な破片が散乱し、照明が消えて薄暗くなった室内はスプリンクラーの水音だけが響く。
「殺すか」
「はぁ!?なに言うとねんや玲弥!!」
ほとんどの敵兵に息があるのを確認した玲弥は、とどめを刺そうと銃を向ける。それを勝呂が慌てて制した。
「何やってんだ勝呂」
「お前が何やってんねん!もうええやろ、捕虜にでもしとけば!」
「そういうのは正規軍のやることだ」
「そないなこと関係、」
言い募る勝呂だが、2階よりあわただしく降りてくる足音を聞き、本能的に黙る。まだ終わっていない。
「…階上へ行きましょう。とどめを刺すにしても後です」
「了解」
それは玲弥も同意だ。さすがに、屋内のすべての敵を倒すことのほうが先だった。
隊員たちは急いで階段を駆け上がる。
廊下に現れた敵を視野に入れた瞬間、先頭の燐が炎を浴びせる。しかしこれでは後ろのメンバーがいる意味がない。
「二手に分かれます!葛城准大尉に続いて勝呂、志摩、三輪の3名は3階へ!他は僕とこの階を掃討します!」
雪男は素早く判断すると、隊を二手に分けた。咄嗟にバランスよく分けたのは、日ごろから様々な場面を想定しているからだろう。やはりとても優秀だ。
玲弥は雪男に反論などもないため、勝呂たちを率いてさらに階上へ上がった。