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「廉造、防火扉で盾頼む」
「りょーかい」
玲弥は京都組3人を率いて階段を上がる。前方からの銃撃に備えて、廉造に防火扉を念動で引きはがさせて一同の前に浮かべる。
その状態で3階に突入すると、やはり廊下に待機していた兵士たちがすぐさま発砲してくる。鋭い音を立てて扉が弾を跳ね返すと、勝呂が雷撃を放った。扉の向こうでうめき声が聞こえてくる。
「子猫丸、あと何人?」
「動いてるんは8人です!」
「よし…勝呂、頼む。あとついでにもっと電圧高くして」
電圧が弱いことが気になっていたため、玲弥は勝呂に指示がてら電圧を高めるよう言った。すると勝呂は驚愕して玲弥の肩を掴む。
「これ以上は死ぬで!?」
「だから、殺すことが前提なんだって」
「お前正気なんか!?さっきからわざわざ殺すなんて、」
「勝呂。これは戦争なんだ、わかってる?」
「戦争かて守るべきモンがあるやろがィ!」
「それでこのすぐ近くの小学校にいる市民が虐殺されてもいいわけ?」
「っ…」
「あのシェルターには多くの小学生がいるはず。市役所にいた人たちもね。この作戦では制圧地点の確保は行わない。確実に仕留めないと」
「せやけどな…っ!」
食い下がる勝呂にため息をひとつ。玲弥は目をそらし、銃を握りなおして転移した。場所は扉の向こう側、敵兵が残っている会議室だ。
部屋に押し入るなり、計8発の銃弾を叩き込む。わずか5秒で、8人の兵士たちはこと切れた。
後ろから慌てて駆け寄ってきた勝呂たちは、血を流して倒れる兵士たちに目を見開く。
「子猫丸、敵反応は」
「あ…屋内はすべて掃討終わりました」
どうやらこれより上の階にはいないらしい。
階下の雪男たちも無事に倒し終えたようだ。
「玲弥っ!!」
『葛城准大尉、浦上より人質救出求む!』
「こちら葛城、了解した」
勝呂は米神をひくつかせながらこちらに寄ってくるが、玲弥は人質解放依頼が入ったためそちらを優先する。
『第三小隊へ、こちら司令部。グラバー園の敵砲台を破壊せよ』
同じタイミングで、司令部より第三小隊に砲台破壊の小目標が与えられた。勝呂は苦虫を噛み潰したようにしながらも、踵を返して階下の雪男たちのところへ向かった。心配そうに2人を見やりつつ、廉造たちも続く。
「…殺さなくて済むなら、殺さない」
そんな玲弥の呟きは、誰の耳にも届かない。
***
勝呂は無性にむしゃくしゃとしながら雷撃を放つ。
第三小隊は今、丘の上にあるグラバー園に続く斜面の道にて、途中のアパートの影から機銃と戦っている。
頂上のグラバー園の庭園に設置された砲台からは、断続的にミサイルが放たれ、海上の米軍に向けて攻撃を続けている。
この砲台はすべてロボットが動かしているらしく、斜面の道には要所に自動機銃が設置されている。
第三小隊が現在戦っているのは、道を挟むようにして並び立つ二つの教会に設置された機銃だ。
機銃といってもかなり巨大で、戦車のようなものである。
道の右側の赤い壁面の教会からは二つ、左側の白い壁面の教会からは三つの機銃がこちらに向けて銃弾を放ち続けており、その衝撃によってほとんどのステンドグラスが割れていた。亀裂が入り、壁面も剥がれ落ちている。
燐がひときわ大きな炎を放つと、赤い教会の方の機銃はついに動きを止めた。続いて勝呂の雷撃と廉造の瓦礫の投擲によって、もうひとつの教会にあった機銃も破壊される。
二つの教会は見るも無残な姿となっていたが、改修するのは容易そうだった。
そしてグラバー園まで進むと、砲台そのものは難なく破壊できた。勝呂の雷撃による過電圧で一発だった。
しかし、こちらはミサイル発射の衝撃があまりに大きかったためか、庭園は地中から掘り返され、旧長崎地方裁判所など周辺の建築物はほとんど柱とわずかな壁しか残っていなかった。まるで骸骨だ。
無心で、玲弥が言ったことを忘れようと任務にあたっていた勝呂の脳裏に、その言葉が聞こえる。
これが戦争だ、という言葉には、目の前の光景のリアルさがはっきりと滲んでいるように思えた。
そこへ、インカムから無線が入る。
『葛城准大尉、ゆめタウン夢彩都の戦闘に加勢願います!』
どこかで人質救出をしているだろう玲弥に対して、全員にオープンで連絡が入る。それだけ余裕がないのだろう。
港湾部にある大きな商業施設だが、敵の本拠地があるらしかった。潜水艦が浅すぎて湾内に入ってこれないため、潜水艦から上陸艇を停泊させる港と大きな建物を兼ね備えた場所だからだ。
『こちら葛城、施設ごと吹き飛ばす。総員退避せよ』
『りょ、了解!』
そんな声がした5分後、離れた港湾からズン、という重い爆音が市内に響き渡る。同時に、北の方から黒煙が立ち上った。本当に施設ほと爆破したらしい。
「あいつ…」
勝呂は思わず声に出して呟くが、先ほどのような怒りは沸いていなかった。ただ、圧倒的な経験と実力の差を見せつけられて、そして考え方の大きな隔たりを痛感して、どういう感情を抱けばいいのかも分からなかったのだ。
『こちら司令部、市内全域の掃討を確認。現時点をもって長崎市は解放された』