対等ということ
●2030年6月
九州戦線はわずか2日間で終結した。
しかしそのたった2日間で、2万389人が死亡し、福岡市は壊滅、長崎県はほぼ全域で大小様々な被害が出ている。
経済がストップしたこともあり、被害額は19兆円に上る。
長崎県をみすみす戦場とした国防軍への批判が高まる一方で、1日でそれを解放した騎士團の評判はうなぎ登りだ。
特に、長崎解放作戦において市民の死者がゼロであったことが大きな評価となった。ひとえにそれをもたらしたのは、玲弥の力によるものだ。
だが、それは玲弥にとってかなり負担だった。
***
作戦が完了し、特科大隊を東京に転移して引き上げた玲弥は、そのまま転移先の訓練室でふらりと傾いた。慌てて、近くにいた勝呂が抱きとめる。
「大丈夫か!?」
スタジアムのようになった基地内最大の訓練室は傭兵たちのざわめきに満ちているが、勝呂の焦った声はそれなりに響く。
周囲にいた第三小隊のメンバーだけでなく、ほかの傭兵も意外そうに見ていた。
それもそうだ、玲弥が国内で倒れるほど力を使う場面などなかった。
勝呂の腕に支えられ、逞しい胸元に寄りかかる玲弥は、息も荒く発熱している。倒れた拍子に、床にキャップが落ち、その黒髪がはらりと額に散った。そこも汗ばんでいる。
「玲弥、おい、」
「あー、やっぱそうなるよなぁ」
そこへやってきたのは、大尉の藤本だ。勝呂はあまり直接しゃべったことはなく、少し緊張する。一方で燐や雪男は育ての親らしく、フランクな態度だ。
「玲弥はどーしたんだよジジイ!」
「誰がジジイだ…察しの通り、力の使い過ぎだ。この2日間で累計1万人は転移させてるからな。それにそもそもこいつは運動能力もSランク、かなり酷使したはず。しかも、人質救出は短時間で数百人だ。こいつも珍しく、ダウンしたのさ」
自分で立てなくなったのか、ずるずると膝を曲げて落ちていく玲弥を、勝呂はお姫様抱っこにして抱え上げる。なんにしても、医務室へ運ばなければならない。
「ついでだ、第三小隊は全員医務室へ行け。お前らも力をかなり使ったはずだ、点滴くらいは受けたほうがいい」
「はい」
大尉の命令に全員が返事をする。疲労とは違う体のだるさを感じていた勝呂たちは、さすがに大尉はよく見ているなと改めてそのすごさを思い知った。
近くにある医務室に入ると、まず勝呂はベッドに玲弥を横たえる。苦しそうな顔に荒い呼吸、先ほどより着実に悪化している。
第三小隊の面々は思い思いの場所に椅子を置いて座り、勝呂は玲弥がいるベッドのすぐ横に椅子を置いて座った。そして医師が点滴をそれぞれに準備し、チューブが繋がれる。
それを見届けたあと、藤本は静かに口を開いた。
「…意外か?鬼のように強いこいつがこんなになるのは」
「まぁ…イメージにはねぇな」
燐が答えたことは、おおむね全員に一致するところだ。藤本は頷くと、話を続ける。
「そりゃあ、こいつも人間だ。俺たちと同じ能力者のな。だから、ケガもするし、風邪だって引くし、力を使いすぎれば倒れるし…人を殺すのは好きじゃねぇ」
「っ!!」
勝呂は息を飲んだ。藤本はそれを静かに見やっただけだ。