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「これでもこいつは准大尉だ。基本的には、戦局を大きく捉えて考えてる。だから、殺した方がいいと思えば殺す。でも、いたずらに殺したいなんて思ったことはねぇさ。殺さなくて済むなら殺さない。それに、力を使いずぎて倒れるような真似も、普通はしない。こいつの役割を考えれば、それはかなりリスキーだからな」
藤本が話すことは、的確に勝呂の胸を刺す。先ほどまで考えていたことを、ぴたりと言い当てられているようだ。いや、事実、藤本は勝呂が何を考えて思っていたか、わかっているのだろう。
「それでもこいつは、作戦域内における人質救出をすべて買って出た。転移能力も運動能力も酷使するのにだ。すでに大隊や国防軍を転移させまくって疲労困憊だったのは分かっていたはずだが、それでも人質救出の任務をやった。なぜだか、もちろん分かるだろ?」
ようやく藤本ははっきりと勝呂に問いかける。ゆっくりと頷くと、声を震わせないように気を付けながら口を開く。
「…俺が、それを望んだから…」
「そういうことだ」
勝呂には、玲弥が疲れ果てているとは分からなかった。さすがに経験値が違いすぎるのだろう、それを隠した玲弥を見破ることなどできなかった。
「…確かに、こいつは何事にも無頓着だ。それはお前も知っての通り。だけどな、こいつだって、人間だ。いくらバケモンみたいに強くても、何事にも無関心でも…大事に思うモンが、あるんだよ」
それが他ならぬ自分であることは分かっていた。苦しそうな表情の玲弥の頭を撫でてやると、少し楽そうにする。こうなるまで無理をしてくれたのは、勝呂のためだったのだ。
勝呂はたまらない気持ちになるのを感じて、目を閉じる。
自分とはまったく違う生き方、価値観、考え方、経験値、実力。そういったことに目がいきがちだったが、藤本が繰り返したように、玲弥だって人間なのだ。
確かに経験値や実力でいえば、勝呂は玲弥と対等な関係とは程遠い。相手を殺してしまうことの是非だって、勝呂はまだ納得できない。それでも、玲弥はこれだけ勝呂のために頑張ってくれた。殺したいわけでなくとも、手を血に染めてきた。
そんな玲弥を支えて、寄り添って、その心身の負担を軽減させられるようになることが、勝呂が玲弥と対等に立つということではないのだろうか。
ーーーそれが、恋人の役割なのではないだろうか。
まったく同じ土俵で対等である必要はない。勝呂には勝呂ができることで、隣に立てばいい。
「じゃ、あとは任せたぞ彼氏君」
「…はい」
藤本は軽く笑うと、医務室を後にした。黙っていた第三小隊のメンバーも、きっと今までよりも玲弥のことを近くに感じているはずだ。
やがて、点滴が終わった者から順番に居住区画へ戻り始めた。勝呂だけが終わっても残り、15分もすれば全員帰った。残るは勝呂と、ベッドに眠る玲弥だけだ。
医師が注射した薬によって玲弥の容態は回復しつつあり、その顔も落ち着いた。
医師は控室にいるといって部屋を出て、完全に2人だけになる。
「…無理させて堪忍な、玲弥」
小声で言いながら髪を梳く。汗で張り付いていた前髪をよけると、玲弥はうっすらを目を覚ます。
「……別に、謝ることじゃ、ない」
「おん…でも、おおきにな」
「ん……」
何よりいうべきは、勝呂のために頑張ってくれたことへの感謝だった。玲弥によって解放され助かった市民の声もいくつか聞いてはいて、それを言っても良かったが、玲弥は彼らのためではなく勝呂のために任務を付与させたのだ。
「なんかして欲しいことあるか」
「……してほしいこと」
「せや」
玲弥はしばらく考え込む。まだ頭がはっきりとしていないようだ。ぼんやりとした目が可愛らしい、と思って勝呂は頭を振る。そんなことを考えている場合ではない。
「…じゃあ、ぎゅってして」
あ、ダメや、かいらしすぎる。そう勝呂は内心で呆けたように呟いて頷いた。
玲弥が布団をめくって促すので、勝呂はブーツを脱いでそこに上がると、腕枕をしてやってから玲弥をそっと抱きしめる。
すると、自分から胸元に寄ってきて甘えてくる。いつになく素直な様子に、なぜか心臓がドキドキと音を立てた。いや、恋人としては正常なのかもしれない。
むしろ、恋人なのだから、かわいいと思うことだって当然だろう。勝呂も相当疲れているのか、そんなことを考え付いた。
掛け布団の上から優しくリズムを刻んであやすように撫でると、玲弥は瞬く間に目を閉じる。
穏やかになった寝顔を見ていると、勝呂も急速に眠気が押し寄せる。少しだけ寝てしまおう、そう思って勝呂も目を閉じた。