東京騒乱: 国防省占領


●2030年6月


九州戦線から1週間、金沢、長崎と陸上戦が連続して発生してしまった衝撃は国内においていまだ冷めていない。
特に、大都市では一層の警戒が続いていた。東京や大阪など、まだ戦争の舞台になっていない大都市の住民は明日が我が身と恐れを抱いているようだ。

そんな中、騎士團では日本本土への攻撃の気配がないことから、少し落ち着いたムードだった。


「なぁ、玲弥も来るか?」

「…や、俺はいい」


そこで、そろそろ労働基準法に抵触しそうな第三小隊の未成年たちに休みが与えられることになった。いくら特例的に騎士團は法を守らなくていいとはいえ、最低限の法定時間くらいはあった。
いくら戦時下でも、別に法が無効になったわけではないのだ。普通に労基署からの警告や行政指導だってありえる。

いつも通り、小隊室のソファでゴロゴロしていると、外行きの私服姿のメンバーがやってきて、燐に誘われた。
しかし、玲弥はあくまで指導者としてここにいるのであって、肩書きの准大尉は変わらない。一緒に休みをもらいはしたが、そうそうここを離れるつもりはなかった。


「お前らだけで行って来いよ」

「まぁ、お前がそう言うなら…」


燐は残念そうにしてくれたが、バカそうに見えてきちんと玲弥の肩書は理解している。渋ることなく頷いた。


「…それなら俺も残る」

「えっ」


すると、勝呂が玲弥の隣に腰かけた。着替えたのに行かないのだという。


「えー、勝呂もかよ」

「まぁまぁ奥村君、坊はほら…ね」

「んー、まー、そーだな」


勝呂の意図を察したらしい廉造が小声で言うと、燐もすぐに納得する。玲弥は勝呂に遠慮するなと言おうとしたが、勝呂に頭を撫でられて黙ってしまった。言わなくていい、ということだろうか。


「じゃ、行ってくる」

「おう、行ってこい」


勝呂が手を振るメンバーに返答し、玲弥は手を振った。なんだかんだ、出雲や宝もいるあたり仲がいいなと思う。
そして部屋には2人きりとなった。


「…よかったの、勝呂」

「あぁ。新宿に服やらなんやら買いに行く言うとったし、俺はあんま興味あらへん」

「ふーん…」


そのわりに、勝呂が着ている服はジーンズに白シャツ、ベージュのジャケット、ペンダントとそれなりにきちんとしていた。
いつもの白黒の服を着ている玲弥より気を使っていそうではあった。


「それに、今日は騎士團の上級会議やろ。一応、基地が手薄になるわけやし」


そう、今日は騎士團の上層部が集まって会議をすることになっていた。場所は市ヶ谷の国防省で、少尉以上のすべての管理職が参加する。
第三小隊の小隊長である雪男もそうだし、柔造や八百造、シュラ、藤本など小隊長以上はすべて基地にいないことになる。


「そりゃそうだけど…そんな俺が出張らないといけないようなこと、ありえねぇし」

「フラグかもしれへんで」

「やめろよ…」


縁起でもない、玲弥が准大尉なんて役職をやっているのは指揮することに自他ともに不安を感じるからだ。こんな怠惰な指揮官は自分でも嫌だ。
むす、とすると、勝呂は男臭く苦笑して、相変わらず横になる玲弥の頭を再び撫でる。


「…なんか最近、子ども扱いしてね?」

「してへん。気のせいや」

「ほんとかよ…じゃあ子ども扱いついでにコーヒー淹れて」

「してへん言うたやろが」


今度はぺちん、と額にデコピンを食らった。それなりに強くて思わず「いたっ」と呟く。コーヒー淹れて、なんて我儘は柔造や藤本ですら聞いてくれるのだが、勝呂は応じない。
そういうところに、改めて同い年だし応じる必要はないのか、なんて思い、くすぐったい気持ちになった。

まだ、先の九州戦線で感じた「対等とは何か」という疑問は玲弥の中で答えが出ていない。だが、もともとそんな考える方ではない玲弥は、今は対等に感じているからまぁいいか、なんて思っているのだった。


48/51
prev next
back
表紙に戻る