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燐のチャーハンに舌つづみを打ち、満足したところで、いよいよとばかりに勝呂と燐が詰め寄ってきた。さぁ手合わせしろという圧に、そろそろ相手しといた方がいいよなぁ、とも思う。ここに入り浸る以上は、少しぐらい合わせることも大事だろう。
「今日は逃がさへんぞ」
「わーったよ、やるよ…」
「いよっしゃあ!!」
燐がガッツポーズを決める。勢いよく勝呂も立ち上がると、玲弥はそちらに向かって「ん、」と腕を伸ばした。
「訓練場まで歩けない」
「はぁあ!?ちょっとやろが!!つか転移でもしろや!!」
「…俺は別にやりたいわけじゃねぇし?ここでゴロゴロするんでもいっこーに構わないってゆーか…な〜?廉造?」
「え、俺?」
隣の廉造に寄り掛かると、至近距離で目が合う。やはり兄弟らしく、兄たちとタレ目がそっくりだ。
「廉造は、手合わせ願いたいなんて殊勝なヤツじゃねぇもんな〜」
「なんや貶されとる?」
「だぁあもうしゃあないやっちゃな!!」
すると、ついに痺れを切らした勝呂が玲弥を抱き上げた。まさに、お姫様抱っこというやつだ。さすがの玲弥も驚いて言葉に詰まる。そんな玲弥に、勝呂はニヤリとした。
「このまま運んだるわ、ワガママ姫め」
「…んのやろ…」
されるがままなのもむかつくので、玲弥は力を使って瞬時に勝呂の背中に移動し、勝手におぶさった。突然腕の重みが消え、同時に背中にのし掛かられた勝呂は「うおっ」と声を上げた。それでも難なく玲弥をおんぶして体勢を整えたのを見て、基礎腕力の違いに結局むかついた。
「なぁ〜早く行こ〜ぜ〜!」
堪え性のない燐が言うと、勝呂は頷いて扉へ向かう。それに子猫丸と廉造もついてきた。なんだかんだ参加するらしい。
「ちょっと、あんたたちだけなんてズルいでしょ」
「わ、わたしもいいですか!?」
そこへ、奥の机にいた出雲としえみもやって来た。真面目なことだ。第三小隊には、同い年だから敬語はいらないと言ってあるのだが、しえみと子猫丸は敬語が抜け切らない。
二人とも子猫丸のようにきちんと制服を着ているのだが、出雲は前を開けてインナーのオレンジのシャツを見せていた。
「いーよ。…雪男は?」
玲弥は机で書類仕事をしている雪男に声をかけた。少尉以上は会議で同席することも多いため、雪男は昔から知っている仲なのだ。真面目な正確らしく、モスグリーンの正装の制服でいた。
「僕は仕事があるので。隊員たちをお願いします」
「真面目だ…」
思わず言えば、すぐ近くの勝呂の目が呆れたようになった。
***
訓練場までやって来ると、小隊規模で使えるトレーニングルームに入った。広さは体育館ほどで、何もない殺風景なコンクリート打ちの部屋だ。
ようやく勝呂の背中から降りると、首から下げるネームタグを壁の読み取り機に翳す。これで部屋が起動して、近くの壁が開いて武器庫に繋がった。
「各員、訓練銃よーい」
小隊の面々は武器庫に入ると、それぞれハンドガンを持って戻ってくる。もちろん実弾はなく、レーザーによって当たり判定を行う。実戦であれば被弾していたような場合、自分のハンドガンがアラームを鳴らす仕組みだ。
全員揃うと、玲弥は軽く伸びをする。
「んん〜…っはぁ、じゃ、始めるかぁ…」
「どーやるんだ?」
燐が首を傾げると、玲弥は面倒くさく思いながら口を開く。
「部屋のシステムが、俺が致命傷レベルの被弾をしたと判断したとき、もしくは俺が降参するまで、君らは好きに攻撃して。俺は一切反撃しない」
「好きに、って、力使ってええんか」
驚く勝呂に頷く。なんの制限も設けない。
「能力もいーよ。一時間でさっき言ったところまで持ち込めなければ俺の勝ち。俺が勝ったら男子勢は俺の言うこと聞けよ」
「…それ、とーぜん逆もありやんなぁ?」
「当たり前」
廉造はニヤリとした。当然、玲弥が負けたら言うことを聞いてやる。
「てかなんで男子だけなわけ?」
「女の子に命令できないから」
フェミニズムではなく、単純に心苦しいだけだ。それは出雲たちにも分かったようで、ちょっと呆れていた。
ポイントは2つ、能力の効率的かつ柔軟な使用ができるか。もうひとつは、チームプレイができるかだ。まぁ、無理だろう。そんなことを無表情の下で思いながら、「スタート」と言うなり瞬間移動した。