セクハラ?
●2029年12月
獅狼×主
R-15
極東戦争勃発の半年前、2029年の年末。
中東で始まった戦火が欧州にも影を落とし、11月のロシアとトルコによるキプロス占領と、EU・米国からの最後通牒、それに対して12月頭にロシアがウクライナ東部併合で返答するというキナ臭い動きが起きている頃だった。
西洋での不安から世界の株価は全面安となっており、急激な円高に見舞われた日本は企業がこぞって業績の下方修正を発表した。
そんなニュースが社会をピリピリとさせている中、大尉室にて玲弥は藤本の前で任務を下されていた。
「悪い、玲弥。クリスマスは戦場で過ごしてもらうことになりそうだ」
「…俺が本気でクリスマス気にすると思ってんすか」
「ただの挨拶みてぇなもんだ」
「でしょーね…」
ロシアとトルコは、クリスマス・イヴにEUに対する先制攻撃を開始するらしい。騎士團の情報科は米国のCIAや英国のMI6を遥かに上回る能力を持つ。確実なことと思っていい。
その上で、EU支部から各国に応援要請があった。米国支部やアフリカ支部などは大隊を1つ貸し出すそうだが、日本は特科大隊が1つしかない。そのため、たった1人だけに声がかけられた。それが、世界唯一の転移能力保持者である玲弥だった。
「前回は半年前だったか?」
「…そっすね、キルクーク戦線以来かな」
「配属は恐らく、ルーマニア周辺…トルコとロシアに挟撃される激戦予定地だ」
「…いつものこと、ですよ」
いつだって玲弥は、その年の最も凄惨な出来事が起きた場所で血を浴びてきた。かれこれ8年はずっとそうだった。
何でもないように言うと、藤本は肩を竦めて玲弥の後ろに回る。何事かと警戒すると、突然、後ろから抱き締められた。
「な、にしてんだ」
「いやぁ、可愛い息子を戦地に送りたくねぇな〜ってな」
「嘘つけ、EUからいくら詰まれたんすか」
「10万ユーロ」
「1000万円じゃねっすか…その分働かねぇとな…」
「拒否するっつー選択肢がありゃ、いつだって拒否すんだけどよ」
素直に報酬額を答えた藤本に呆れそうになるが、存外、本気そうに藤本はそうも付け加えた。こんなところで本音など聞きたくはなかった玲弥は、タメ息をつく。
「…俺の仕事奪わないでください」
「…仕事、ね。お前はほんとに…」
藤本は、含むようにそう言うと、突然玲弥のシャツの下に手を差し込んできた。するりと腹筋を撫でる指に、ぞくりとする。
「ぁっ、ちょ、おい、」
「向こうでこんなことされんなよ」
藤本の指は上へと進み、胸の先をきゅっと摘まむ。
「んぁっ、され、るか…!」
「お前は自分のことにも無頓着だからなぁ、流されちまいそうだ」
そんなこと、と言おうとも思ったがやめる。正直、藤本の言う通りだ。自分が欲望の捌け口にされようと、翌日の任務に支障が出なければいいと思ってしまう。本当に嫌なら力を使ってすぐに逃げられるというのもあった。
「お前が自分を大事にしなくても、お前を大事に思ってるやつがいるんだよ」
「っあ、はっ、や、それ、んなことしながら言うことかよぉっ…!」
ぎゅっと胸もとをつねられ、鈍い刺激が下半身へ駆け抜ける。精一杯背後の男を睨めば、「やっべ」と低い声が落ち、体を離した。
「まっ、気ぃつけてくれ」
「はぁっ、はぁ、普通に言えよ…!」
シャツを整えると、藤本はさっさと執務机に戻る。話は終わりだろう、玲弥も準備しなければ。
「あぁ、迎え呼んでおいたぞ」
「なんでわざわざ」
「そんな色気全開で居住区画を出歩いてみろ、公衆便所になんぞ」
「うわ…」
酷い下ネタ、というか言い方だ。こういうところは本当にエロ親父だと思う。ちょうどそこへ、ノックとともに 扉が開かれる。
「失礼します」
「おー志摩少尉、呼び出してわりぃ」
振り返れば、黒髪の短髪で、迷彩柄の上着の前を開けて赤いシャツを見せる兵服の男。タレ目に精悍な顔立ちの長身は、志摩柔造、第二中隊第一小隊の隊長である。
「げっ…」
「随分な挨拶やなぁ」
思わず声を出せば、柔造は男臭く苦笑した。25歳のこの青年は、そういう爽やかなところがモテるのだという。
「見ての通りだ。こいつを送ってやってくれ」
「…了解しました」
送ってやる、その指示が意味するところを冷静に考えれば、改めて爛れているなぁと思った。