Contemporary II: the sin
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1940年2月、イギリスは捕虜救出のため海上を航行するドイツ船へ乗り込んだ。

それはノルウェー領海内での出来事であり、中立侵犯に等しい行為だった。

これによりドイツの警戒が強まり、当初予定されていなかった北欧侵攻の計画が作成、実行されてしまった。

イギリスも3月に遠征軍を派遣しようとしたが、フィンランドとロシアの戦争がいったん停戦したため、大義名分を失い中止した。

4月、とうとうドイツがデンマークへ進軍を開始し、北欧での開戦は秒読み状態となる。






アルレシアは再びオスロを訪れ、今度はデンマーク、ノルウェーと会談することにした。

軍服に身を包んだ二人はピリピリとしている。

「話って?」

アルレシアはノルウェーに話があると言われてここへ来ている。

「…アルレ、俺らは勝てるかどうかわかんねえけんど、どうなってもアルレに影響がある」

「俺なんかは勝てねえよ、ぜってえ」

デンマークは苦笑するが、その目は真剣だ。

「アルレは戦うんでねえ」

そしてノルウェーは、今までで一番真剣な声で言った。

「…なんでだよ」

「前回、俺らはなんもできなかったけどよ、今回もなんもできねえ…むしろ、迷惑かけるかもしんねえ」

「そんな…この前は助けに来てくれただろ」

第一次世界大戦でアルレシアに救援を秘密裏に送ってくれたのはこの二人だ。

「前回よりも厳しい戦いになるかもしれねえ。アルレが傷付くのを、なにもできず見てるだけなのはもう懲り懲りだ」

そう言いながらノルウェーはアルレシアの髪を撫でる。

「本当は…直接守ってやりたかったけんど…」

「俺らは、長く戦わなさすぎた」

二人が本当に申し訳なさそうにするため、アルレシア も言葉に詰まってしまった。

気持ちだけでも嬉しい。

本来なら余計なお世話だと思うところだが、今回は完全に戦力が足らず、アルレシアはドイツに攻めて来られたらどうしようもない。

その恐怖がないわけではなかった。

「ありがとう…でも、諦めたくはないんだ」

「そうけ」

「言うと思った」

アルレシアの真剣な目に、二人も笑う。

「悪い、心配かけるな」

「いいってことよ!」

「いつものことだ」

これから開戦だというのにアルレシアを心配してくれる二人に、温かい気持ちになる。

「…気を付けて。健闘を祈る」

敬礼するアルレシアに、二人も同じように返した。


4月9日。


デンマークはドイツからの電話を受け取り、いよいよか、と息を吐いた。

「もしもし、ドイツけ?」

『あぁ。今、俺の軍がそちらに向かっている。だが間違えないで欲しい。これはイギリスたちから北欧の中立を守るためであって、侵略ではない』

「へえ…で、要求は?」

『抵抗をやめ、デンマーク当局とこちらと連絡を取って欲しい。受け入れられないなら、コペンハーゲンは爆撃させてもらう』

「…、分かった」

なにが守るだ、と内心でぼやきながら、デンマークは部下に指示を出す。

「抵抗をやめるよう伝えてくんちょ。あと、宮殿近衛兵に警戒連絡」

「はっ!」

指示を終え、デンマークはコペンハーゲンのアマリエンボー宮殿へ向かった。

中には国王や内閣官僚たちがおり、協議を行う予定だ。

ドイツ軍はすでに各地に進軍し、抵抗のない基地を次々と制圧していく。


そして4時過ぎにコペンハーゲンにもドイツ軍が上陸し、歩兵が宮殿へ侵攻する。

デンマークは宮殿の近衛兵たちに混ざり、防衛にあたる。

銃を担いで、積まれた土嚢から前方を睨んだ。


歩兵は1000人ほど、対してこちらは増援も向かって来ている。

恐らく上司たちはすぐ結論を出すだろう。

「この一回だけ踏ん張ってくんろ!」

そう叫んで、デンマークはトリガーを引いた。






宮殿への攻撃を防いだデンマークは、足早に宮殿の中を進む。

時おり銃声が外から聞こえ、威嚇のように飛行機の音が空を裂く。

上司たちがいる部屋に入ると、デンマークは軽く礼をして着席した。

「戦うべきです!祖国の危機ですぞ!」

「しかし敵は強大です…」

偉い人たちの話はずっとその繰り返しで、まとまりそうでまとまらない。

「対空兵器の性能が追い付いていないのでは勝てないのでは…」

「だがここで折れれば名折れですよ」

「敵の狙いはノルウェーへの侵攻、足掛かりとしてしか我が国を使わないのなら流血は避けるべきでは」

どの意見もその通りで、だからこそ先行きが見えない。

農業国としての道を歩み出してかなり経ち、戦力に乏しいのは事実なのだ。



すると突然、複数の爆撃機の音が上空から響いてきた。


明らかに高度が低い。


さっと緊張が走った。


デンマークは慌てて窓辺へ走り、コペンハーゲン市街を見渡す。


美しい街並みに、上からばらばらと紙が巻かれている。


ビラだ。

ドイツは圧力をかけているのだ。

コペンハーゲン市民を人質にとって。

「…爆撃は時間の問題だ」

デンマークは振り替えって席上の重鎮たちを見つめる。

デンマークがいつもひょうきんなのは彼らも知るところで、それがこんな真剣な眼差しをしていて驚きを隠せない。


「…結論を出そうじゃないか」

厳かに国王が言うと、上司たちは口元を引き締める。








侵攻開始から6時間という短さで、デンマークは降伏した。

比較的犠牲を出さず、デンマークは国を明け渡すことで道を開いたのだった。


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