Middle Age I: the Ruler of North Sea
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身長が160cm後半になった辺りで、アルレシアはある感情に悩まされた。
「…つまんない」
建国から100回以上の誕生日が過ぎた。
アルレシアは、母のように慕っていた人物との出来事以来大人たちと関わりを絶ってきた。
最初から関係を持たなければ、あんな思いをすることはもうないからだ。
王宮の自室に閉じこもり、時々街に出て散歩する。それだけの生活。
つまらない、と思っているが、本当はそれよりも、終わりの見えない寂しさがあった。
99年にローマ帝国と会い、401年に建国するまでの302年間は、特に孤独を感じたことはなかった。それを感じるほど成熟していなかったのだ。
だが建国して成熟して来ると、客観的に自分が一人だと分かった。
この100年は忙しかったし、大人たちと過ごしたからまだ良かったが、今は寂しくて仕方がなかった。
「あーくそ…なんで誰もいないんだ…」
王宮にも首都にも人はいる、だが、自分と同じ存在には会ったことがない。
普通の人間と話しても、あぁ、いつかこいつもいなくなるんだ、と思ったら、話を続けることはできなかった。
「…ずっと、このままなのか…」
何とかしないと、おかしくなりそうだ。
アルレシアは耐えられず、街に出ることにした。
***
賑やかな首都の中心部、人でごった返す中を歩く。
城壁で囲まれた市内には、2階建てから3階建ての木造家屋がひしめく。乱雑に並ぶ迷路のような街並みだが、その中心には、王国全体を結ぶ8つの街道の接続点となっている巨大な広場がある。広場には王宮の他に、神殿や市役所、商館などの大きな石造りの建物が並ぶ。
馬車や人々が行き交う広場に面した建物には、地面で露店商が王国中、ひいてはヨーロッパ中のものを扱っており、その熱気に満ちている。
商店を見ながら歩いていると、気になるものを見つけた。
「これは?」
「おぉ、お目が高い」
初老の店主はいきいきとアルレシアが目をつけたものを紹介する。
「これはこの木の板を並べて絵を完成させるものです」
「へえ…うわ、高い」
「東方からの輸入品ですからね」
「あとで買いに来る」
「取り置きしますね」
「頼んだ」
アルレシアは店を離れ、王宮へ戻った。
「そうか…暇つぶしにも金がかかるようになったのか」
物々交換の時代は終わったのだろうか。
正確には終わっていないが、商業が発展した都市部では貨幣経済になっている。大陸部では、ゲルマン移動の混乱で貨幣経済が衰退し、物々交換が活発だ。
また、安定した東ローマ帝国では貨幣経済が続いている。
混乱を免れたアルレシアだけが、西ヨーロッパ世界で貨幣経済を発展させていた。
「金がなきゃ、なんもできないな…だからと言って税金は使いたくないし…」
考えながら、アルレシアは王宮に入り、ふと、飾られた壷やタペストリーを見た。
実はこれはアルレシアが作ったものだ。
ペルシアの職人を招いて教えてもらい作った。
「…売れる、か?」
試しにタペストリーを壁から外し、街の質屋へ持って行く。
再び人混みに身を投じ、並ぶ商店の隙間に建つ質屋へ入る。
「いらっしゃい」
「これ、売れるか」
「どれ…おぉ、また見事なタペストリーですな。高く買い取らせて頂きたい」
「ほんとか」
思った以上の金額を得て、アルレシアは先ほどのパズルを購入しに行く。
「お、さっきの方かい。ほら、どうぞ」
「ありがとう」
金を払い、アルレシアは初めて物を買った。
「…これなら、何とかなるか」
そうしてアルレシアは、金を稼ぐことを覚えた。
文明的経済は余剰農産物を生産できるようになってから始まる。
アルレシアでは北海の暖かな気候が、この時代にしては温暖な国土をもたらし、それが農業生産を拡大させた。
もともとローマ帝国からもたらされた貨幣経済が維持されていたアルレシアでは、それが余剰農産物売買を促すのに時間はかからず、やがて島を縦横に行き交う街道に沿った大規模な商流が生まれた。
こうして根っからの商人気質となったアルレシア人は、世界的に有名ながめつい国民性を持つに至った。