Middle Age I: the Ruler of North Sea
−眉毛と美少年とノルマン・コンクエスト



西暦843年。


隆盛を誇ったフランク王国は、相続争いの末分裂した。
東フランク、西フランク、中部フランクの三つだ。

そして、東フランクは神聖ローマ帝国、西フランクはフランス王国、中部フランクはイタリアへと名前を変える。
イタリアは都市国家に分裂し、フランスと神聖ローマ帝国だけになった。


それに前後して、アルレシアにおける270年にわたるノルマン戦争が始まった。


***




アルレシアは、緊張した面持ちである家の前に立った。


「フランス王国…」


最近生まれた、フランスの家だ。

ローマ以来、国に会うのは500年振りくらいである。
アルレシアは扉を丁寧にノックした。


「はーい…」


扉は音を立てて開き、中から美少年が姿を現した。

アルレシアより背も低く、まだ若い。

美少年―――フランスは、アルレシアを見て目を見開いた。


「初めまして。アルレシアだ。よろしく」


第一印象を気にして、笑顔で挨拶すれば、フランスの口が開く。


「…美しい…」

「…ん?」

「なんて美しいんだ!これぞ神のつくり給いし至高の美!」

「…、ありがとう?」

「あぁ申し遅れた、俺はフランスというんだ。ぜひよろしくね」


フランスも相当綺麗な顔立ちだが、あまり言うとフランスのテンションがさらにおかしくなりそうなのでやめておいた。


「今日はどうしたんだい?」

「新しくできた国っていうんで、仲良くなりに」

「とても光栄だよ。さ、中に入って」


フランスに促され、アルレシアは家に入った。
石作りの建物は豪華に見えて、ところどころは荒い。

中央集権が図れていないからか、その力は弱体なのだ。


「ワインでいい?」

「ありがとう」


木の椅子に座り、テーブルにワインが入ったグラスが置かれる。ローマ帝国時代の荒いグラスだ。


「乾杯しよう、この世の天使に出会えた喜びに」


そう言ってグラスを掲げてフランスに苦笑しつつ、アルレシアもグラスを掲げる。


「新たな友に出会えた喜びに」


フランスはアルレシアの言葉にうれしそうに笑った。

ワインを飲んで少し休んでから、フランスはグラスを置く。


「アルレシアはいつからいるんだ?」

「正確には分からない。ローマ帝国の最盛期には生きてたな。王国になったのは西ローマが滅びるちょっと前くらい」

「じゃあもう900年以上生きてるわけ?」

「多分な」

「すごいなぁ」


フランスは感心したように言う。


「俺もそれくらい生きて大人〜な男になりたいね」

「はは、なんだそれ」


表現が面白くて笑えば、フランスは頬を染める。


「アルレシアは…ちょっと天使過ぎ…笑顔の威力が」

「んー?」

「いや、」

聞こえなかったアルレシアに、フランスはぼかす。
アルレシアも気にせず、フランスの言葉に感慨深いものを感じた。他の国に会ったことがなかったから思い至らなかったが、アルレシアはいわゆる先輩にあたるのだ。


「そうだ、アルレシアはイギリスには会った?」

「イギリス?…あぁ、ブリテン島の」

「そうそう。あいつ、生意気なやつだけどあぁ見えて寂しがり屋さんだからさ、仲良くしてあげて」

「なんか兄貴みたいだな」

「似たようなもんだよ。俺の少し後にあいつも生まれたからな」

「そうか…じゃあ行ってみる。今度は三人で話そう」


そう言えば、フランスは綺麗に笑いながら頷いた。


***


フランスに言われた通り、アルレシアは海を渡ってイギリスを訪れた。

アングロ系やサクソン系、ケルト民族などの細かい国に分裂していたのが統一されたものだ。

ぼろぼろの家の前に立ち、扉をノックする。


「誰だー…えっ」


出て来たのはまだ幼い少年。
太い眉毛が特徴的だ。


「初めまして、だな。俺はアルレシアだ」

「えっ、あ、イギリス…」

「よろしくな」


屈んで目線を合わせれば、イギリスはこくこくと頷いた。


「お前の兄貴の、スコットランドと貿易してるんだ」

「スコット兄さん…?」

「そう」


イギリスはそれを聞いて安心したのか、警戒を解いた。
無意識だろうが、体が強張っているようだった。マントの中から見上げる目には不安があった。

フード越しに頭を撫でてやりながら、ポケットを漁る。


「えーと…あったあった」


取り出したのは木のおもちゃだ。


「トロイの木馬。知ってるか?」


イギリスは首を横に振る。


「東方の大国、東ローマ帝国の都の南にな、今から何千年も前にあった街の像だ。その街での戦いのときに、敵はこの木馬に隠れて隙をついたんだ」

「すごい…」

「だろ?…これ、やるよ」

「え、いいのか…?」

「あぁ。同じものはいくつか輸入してるし」

「でも…」

「遠慮すんなって。ほら」


アルレシアはイギリスの小さな手に、トロイの木馬のおもちゃを持たせる。


「…ありがとう」


微笑んだイギリスに、アルレシアも表情が緩む。

小さい子供が好きなアルレシアにとっては、弟のように思える。
フランスもまだ若いから、二人とも弟分みたいなものだ。実際、彼らより1000年近く長く生きている。


「これからもよろしくな」

「うん!」


おもちゃを握り締め、イギリスは元気良く頷いた。


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