Contemporary II: the sin
−喪失



1940年6月、オランダやベルギーを占領していたドイツは、とうとうフランスへ侵攻した。

圧倒的な力の前にイギリス・フランスは劣勢になり、ダンケルク撤退などの末、パリを放棄した。

ドイツ軍は華の都へ無血入城し、フランスは降伏。

本土には傀儡政権が立ち、イギリスに亡命した政府は自由フランスとして抵抗を呼び掛けた。


それを見てイタリアも参戦し、戦火は広がっていく。




その中でアルレシアは、連合、枢軸両方で取り合われるような形になっていた。

ドイツはイギリス侵攻の足掛かりに、イギリスはその防衛のために、アルレシアを制圧する必要があったのだ。

とは言っても、アルレシアは島国であり大規模な上陸作戦を行わなければならず、まずは外交ルートでの接近が始まった。




***




「また来たのかよ、イギリス」

アルレシアはやって来たイギリスを家に招き入れ、リビングに通した。

「何度でも言うさ。アルレシア、連合側につけ」

「俺も何度も言おう、断る」

「ノルウェーやデンマークを見ただろ?」

フランスの降伏でノルウェーからイギリスが撤退し、ノルウェーは占領されてしまった。

「約束は約束だ。ドイツが攻撃しなければ俺は何もしない。どっかの誰かさんみたいに領海内で軍事行動はしないしな」

「…、俺よりあいつを信用するってのかよ」

「チェコもポーランドもオランダもノルウェーも…みんな見捨てただろ」

イギリスは苛立ったように机に手を叩きつけた。

「スペインみてえに中立のふりして枢軸に立つつもりかよ!?」

スペインは中立ながらドイツと繋がり、物資を送るなどしている。

準枢軸と見なされていた。

「そうじゃねえけど…」

「そういうことだろ!ドイツは絶対悪だってのに、中立なんて騙るのかよ!」

「なぁ…イギリス」

アルレシアは激昂するイギリスをじっと見つめる。

「…悪ってなんだろうな?」

「…っ、」

「お前は正義なのか?」

アルレシアの真っ直ぐな目に、イギリスはそうだと言えなかった。

「俺だってあいつに攻撃されたらやり返すさ。だけど、先手を打つようなマネはしない」

「…そうかよ」

かろうじてそれだけ言って、イギリスは立ち上がる。

はっきり自分が正しいと言えなかったことに動揺していた。


「ヴェスト、話がある」

フランスのパリ郊外、森の中で夜営しているとドイツはプロイセンに呼び出された。

他の兵士から離れ、木立の中で顔を付き合わせる。

「なんだ」

「アルレシアのことについて、連絡があった」

「…、」

「…7月後半に、侵攻する」

「っ!」

ドイツは息を飲んだ。

外交ルートでの交渉が決裂したんだろう。

「国民にはイギリスの中立侵犯から守るためっていうプロパガンダをするらしい」

「…それで、どう攻撃するんだ」

「空爆による首都の破壊と、一斉上陸作戦だ。一気に方をつけないと、連合側につかれる」

「…そう、か」

ドイツは近くの木にもたれた。

「…ドイツ?」

すると、ほんわかとした声が響く。

イタリアだ。

「プロイセンも…どうしたの?」

「イタリアちゃん…」

プロイセンは言いにくそうに目を逸らした。

そこでドイツが口を開く。

「アルレシアに、侵攻することになった」

「えっ、アルレシア兄ちゃん?でも、アルレシア兄ちゃんはドイツを助けてくれたよね?」

第一次世界大戦のあと、賠償金減額を要求したのはアルレシアだった。

ドイツ国民へのプロパガンダも、それがあるからだ。

「でもよ、あいつを獲得しないことにはイギリスに勝てないんだぜ」


プロイセンは腕組みをしながら諭すように言う。

「俺はドイツたちのことにとやかく言わないけどさ…後悔して欲しくないなって」

「…気にするな」

ドイツはそれだけ言って、木から離れる。

「他の国に協力を頼んでくる」

「ノルウェーとデンマークには俺様が言いに行くぜー。ヴェストはオランダたちのとこ行けよ」

「わかった」

不安そうなイタリアを残し、ドイツは振り返ることなく木立をあとにした。



***


「なに言うてるんや」

オランダは唸るように言った。

ドイツがアルレシア侵攻への協力を要請しにオランダを訪れてその旨を話すと、オランダは今までにないほどの怒りを示した。

「ふざけるんやない…ほんまにかやすぞ」

「できるものならな」

すでに多くの犠牲を払っているオランダに、そんなことができるわけがない。


オランダ自身分かっていることだったが、それでも言わずにはいられなかった。

「あいつが…賠償金決定のあと、どうしたか知ってるんか…」

「…?」

眉を寄せるドイツに、オランダは噛み締めるように続けた。

「俺んとこ来て泣きよったんや…お前を助けられんかったことを、気に病んで」

ドイツは表情を変えないようにするのに必死になった。

それほどに、衝撃だった。

アルレシアの優しさは知っていたが、そんなことまでしていたとは、という気持ちだ。

「…、知らないな」

目を閉じて、ドイツはゆっくり呟いた。

「恐怖爆撃を繰り返したくなければ、従うことだ」

「ちっ…ほんまに…絶対許さん…!」

奥歯をギリギリと噛み締め、オランダは無力さに苛立った。


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