Contemporary II: the sin
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パニックに陥っているであろう人々も助けねばならないし、どう動けばいいのか頭を巡らす。

すると、部屋の扉が開き首相が飛び込んで来た。

「陛下、空爆です。ドイツは不可侵条約を破り侵攻してきました」


「分かっている。すぐに人々を避難させるんだ」

「今指示を出したところです」

首相はちらりとアルレシアを見遣る。

「君も早く逃げなさい」

「あなたこそ、」

この期に及んでアルレシアの心配事をする首相に、ため息をつきたくなる。

背後からさらに爆発音が響き、悲鳴も聞こえ始めた。

ずき、と体が痛む。

(誰か、死んだ…)

その事実が痛みをもって伝わる。

アルレシアは窓から街を見下ろした。







円形の城壁に囲まれた旧市街の向こう、新市街の南東から爆撃が始まっていた。

爆弾が直撃した建物の上部が吹き飛び、内部が崩落し、外壁や窓ガラスが砕けて道路に落下する。

そこを走る人々を直撃し、悲鳴を上げながら踞る。

火の手が上がり、黒煙が立ち上る。

人々は必死に走り、追いたてられて旧市街に入っていく。

だが旧市街は城壁に囲まれており、4つの門からしか出入りできない。

中央には王宮があり、回り込んで反対側には行かないといけないため、旧市街は危険だった。

パニックになった人々は気付かずに中へと入っていく。

さらに爆弾が投下され、建物によっては人々が埋める道路にそのまま倒れるものがあった。

爆弾が通りを直撃することもあり、簡単に人間が爆風で宙を舞った。

横一列に並んだ爆撃機は空襲を続け、旧市街に迫る。

その中の一機が、ミサイル型の爆弾を発射した。


狙いは首都で最も高い尖塔の根本、オランダが建てた教会だった。

石造りの壁が砕け、ステンドグラスの色とりどりのガラスが通りの群衆に降り注ぎ赤一色となる。

塔はゆっくりと傾き、湾曲しながら通りへ倒れていき、地面に叩きつけられるとともにバラバラになった。


アルレシアはその瞬間、大勢が下敷きになったことを感じ、激しい痛みに襲われた。

「うっ…なんで、同じキリスト教だろ、」

最も高い建物を失った街並みはどこか足りない。

教会の向こうに立ち上る黒煙は、夜の暗闇の中でも炎に照らされ不気味に光る。

だんだん爆撃機が近付く中、部屋に兵士が入ってきた。

「アルレシア君を頼んだ」

国王の言葉に、アルレシアはすっと体の中が冷めるのを感じた。

「な、なにを言って、」

「私はこの都と最期を共にする。君は生きて脱出しなさい」


信じられない気持ちで、アルレシアは首を横にふる。

「そんな…いけません、あなたも生きなければ、」

「私はいいんだよ」

アルレシアを心配し続けてくれた姿が目に浮かぶ。

「だめだ、だめです、」

ドーン、と大きな音ともに床が震えシャンデリアが揺れる。

「これを」

国王は聞かず、穏やかに笑ってアルレシアに手を差し出す。

首相も兵士も黙ってこちらを見つめた。

窓の外には燃え上がる首都。

「これを息子に届けて欲しい」

渡されたのは、ペンダント。

王家の印だ。

「任せたよ。さぁ、行きなさい」

兵士がアルレシアの腕を、恭しく、かつ力強く握る。

「なっ、待て、陛下が、」

「アルレシア君、あなた自身の幸せを願っているよ」

そう言って首相も笑う。

「そんな、あなたまで、」

「私はちゃんと脱出する。もしこれが最後の別れになったらと思っただけだよ」

首相はいたずらっぽく笑う。

「でも、」

このままでは間に合わない。

首相は笑いながら首を横にふる。


「さぁ、行くんだ」

兵士に引っ張られ、アルレシアは廊下へと引きずられる。

窓からは、すでに旧市街が爆撃されているのが見える。

その窓も爆風でヒビが入っている。

部屋の扉が閉まる。

また床が揺れ、あらゆるものが音を立てた。

国王と首相は、いつも通りの笑顔。


いつも通りの、アルレシアの幸せを願う顔だった。


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