Contemporary II: the sin
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翌日。
ようやく火災が収まり、昼間には辺りを見渡しても白い煙しか見えなくなっていた。
爆撃機の多くを撃墜したアルレシア軍の働きにより、上陸作戦は延期された。
嵐が去った首都では、その爪痕に人々が呆然としていた。
半分以上が焼け野はらになり、すでに5000人以上の遺体が発見されている。
アルレシアは南側から王宮に向けて歩く。
まず目についたのは、石の山となった教会の廃墟だ。
倒れた尖塔の中から、人々が遺体を見つけ出している。
オランダが建てたからか、ことあるごとにオランダと過ごした時間を思い出した。
今は更地のようになった街の中で、かなり原型に近い廃墟だった。
街道を進むと、旧市街の城壁が見えてくる。
ぼろぼろになりその機能を果たしていない城壁に、崩れた門が残る。
東門であり、デンマークたちと初めて会った場所だ。
柱が倒れ、木の扉は炭になっている。
掲げられていた国旗が焦げたまま風に頼りなくたなびく。
さらに行くと、広い公園に出た。
ここは昔、プロイセンに襲われた森で、公園として整備された場所だった。
旧市街の一角を占めた場所だが、今は遺体の集積所になっている。
遺族たちが泣きながら別れの言葉を述べていたり、愛する者がいないか探す者もいる。
ふとなにやら騒ぎが聞こえて、アルレシアはそちらへ足を向けた。
旧市街を出て歩くと、街並みが残った区画がある。
北側の火災を免れた地区から、不自然に焼け野はらに張り出していた。
「…、ドイツ人地区か」
三十年戦争の際に亡命したドイツ人が住み始め、今では15000人近くが定住している。
そこで揉め事が起きていた。
「よくのうのうと配給に預かろうとできるな!ドイツ人のくせに!」
「お前らのせいでこんなことになったのに!」
人々が叫ぶのは、ドイツ人への憎悪。
それを受けるドイツ人たちは困り顔だ。
当たり前である、いくら昔からドイツ人が多い地域でも国籍はアルレシア人なのだから。
しかし憎悪を叫ぶ人々の気持ちも理解できた。
一番分かりやすい悪だからである。
そうは言ってもあのドイツ系の人々に罪はない。
恐らくここが爆撃されなったのはわざとだろう。
こうなることも分からないわけではないだろうに、とアルレシアは呆れた。
だが、空気がさらに不穏になると気を引き締める。
「お前らがいなければ!」
「お母さんを返してよ!」
「よくも…殺してやる!」
男が石を振りかざしたところで、アルレシアは声をあげる。
「なにしてる!」
男は踏みとどまり、殺されそうになった住民の男は震えながらこちらを見る。
「アルレシア様…!?」
驚いたような顔をした男だったが、すぐ顔を歪める。
「止めないで下さい。娘の敵を打たなければ…」
「馬鹿言うな。同じアルレシア人だろ」
「でも…!」
アルレシアは心の痛みに眉を寄せた。
彼らの失った苦しみだ。
「…君たちの気持ちは分かる。この土を通して、気持ちが伝わって来る。悲しみも憎しみも…全部分かる。大丈夫、俺が理解してやるから…全部俺にぶつけろ」
優しく微笑むアルレシアに、人々は動揺する。
「やり返したって、なにも帰ってこない。憎しみに憎しみで返しちゃだめだ。俺が受け止めてやるから、他人にぶつけるんじゃない。人を憎んで、前に進むことはできないんだ。まだ前向きになれなくていいから。また傷付けることだけは、しちゃいけない」
そう言うと、一人の少年が駆けてきた。
「アルレシア様!うっ、ひっく…おか、お母さんが、」
「そうか…つらいよな、そうだよな」
それを見た他の人々もすがるように周りに集まり、涙を流しながら悲しみを訴える。
すべてを感じながら、アルレシアはやりきれない気持ちになる。
彼らが失ったものを、取り戻すことはできないのだ。
(俺は、なんのために存在してるんだ…)
***
彼らと別れ、アルレシアはまた焼け野はらを歩く。
すると、聞きなれた声が背後からかけられた。
「アルレシア、」
振り返ると、そこにはイギリスとフランスがいた。
「お前ら…」
驚くアルレシアに苦笑してから、イギリスは真剣な顔になる。
「お前とドイツは開戦したってことでいいんだよな」
「あぁ…」
「じゃあお兄さんたちの側につくよね?」
フランスの言葉に思考を巡らせる。
もしこのまま連合側についたら。
ドイツとイギリスがアルレシアで戦うことになる。
これ以上の流血など、ありえない。
「…、いや」
アルレシアはきっぱり断った。
「は!?なんでだよ!」
「俺ん家でお前らに戦われるのは困る。まだ決めない」
「じゃあどうすんの?」
フランスは心配そうだ。
中立のままでは簡単に占領さるてしまうからだ。
「とりあえず上司に聞かねえと…」
アルレシアはため息をついて廃墟の街並みを見渡す。
上司は、もう変わっただろうか。
王宮の遺体はどうなってるのだろうか。
脳裏に、国である自分を子どものように心配し、気にかけてくれた二人の笑顔が甦る。
もう、あの二人はいないのだ。
涙なんてものは零れない。
涙など、泣くことなど、ひどくちゃちなものに思えた。
そんなアルレシアを、イギリスとフランスは気遣わしげに見ていた。