Contemporary II: the sin
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爆発音や地響きを感じながらの陸上戦は集中力が問われる。

十字のカーソルを合わせ、トリガーを引く。

ただそれだけに、ひどく集中力を要する。

アルレシアは冷静に発砲するが、隣の部下は銃口が震えている。

「落ち着け」

トリガーを握る手を握ってやると、部下の肩の力が抜けた。

「ベストを尽くすだけでいい」

「はい…」

アルレシアは港に向き直る。

ボートからは次々とドイツ軍が上陸してくる。

この光景が全国で繰り広げられているのだ。

「もう少しの辛抱だ」

そう思ったときだった。

無線の連絡が耳に入る。









『緊急連絡!亡命船がUボートにより撃沈!閣僚はじめ政府関係者の安否は絶望的!』










「は…」

アルレシアは思わず声を漏らした。

「亡命、失敗…?」

それが意味するところを、アルレシアは即座に理解した。


「…、総員に命令!即時抵抗をやめ降伏せよ!繰り返す、降伏せよ!」


亡命の失敗。

それはつまり、アルレシアの完全な占領を意味した。

これまで海軍がほぼ全滅するまで戦ったのは、政府が亡命し国際法上は国が存続することを前提にしていた。

国が存続するから、そのために彼らは戦い、命を落としたのだ。

しかし亡命に失敗すると、傀儡政権が立てられ、正式にドイツの支配下に下る。

一度、国が滅びるようなものだ。

それと分かっていて、みすみす兵士の命を奪わせるのは、まったく無意味だった。

これまでのイデオロギー的な意味のある死ではなくなったのだ。

アルレシアが抵抗をやめるよう命令したのはそのためだ。


すると部下が駆け寄ってくる。

「なぜです?まだ防衛ラインは突破されていません」

「…政府が亡命に失敗した」

「そんな…」

部下は顔を白くさせた。

それと同じくらい白い旗がすぐに上がる。

もともと用意はしていたものだ。

「まさか…イタリアでもないのにこんなもの使うことになるとはな」

アルレシアは自嘲しようとしたが、顔が動かなかった。


1941年3月。


アルレシア国内でもともとドイツ従属を訴えていた左派により、傀儡政権が樹立された。

独ソ開戦が秒読みとされる中、アルレシアにドイツ軍をずっと置くわけにはいかないため、アルレシアには占領軍としてデンマーク、ノルウェー、オランダがやって来た。

アルレシアにとってはドイツに来られるより遥かに良かったが、久々に会ったデンマークたちを見るのもつらかった。

「アルレ…大事ねえが」

「ノルウェーこそ…」

包帯をあちこちに巻いたノルウェーが真っ先にアルレシアに心配の声をかけた。

首都の臨時の政府庁舎の近く、小さな屋敷の中へ一番最初に入ってきたのだ。


「俺は問題ね。アルレ…やつれたんでねえが」

「大丈夫だって、それより他のやつは?デンマークとか」

「すぐ来る」

ノルウェーが言った通り、すぐにデンマークとオランダも到着した。

「アルレシア!大丈夫だっぺぇ!?」

「大丈夫だから落ち着け」

部屋に入るなり騒ぎ出すデンマークを宥めながら、アルレシアは後ろのオランダに目をやる。

「ひさしぶり」

デンマークはほぼ無傷だが、オランダはボロボロだ。

「あぁ…それよりアルレ、気ぃつけや」

「なにがだ?」

オランダは深刻な顔で近付く。

「お前の監視役…お前に何してもええって言われとった」

それを聞いて、ノルウェーとデンマークは眉間にシワを寄せた。

アルレシアはよく分かっていない。

「好きにしてええっちゅーことは、アルレに暴力振るうことが合法的に許されたってことやざ。それがどんな暴力でもな」

その言い回しでアルレシアも理解した。

そして、なるほどな、と思う。

アルレシアの気性を考えれば、自らレジスタンスでもやりかねない。

そうしないよう、心を折ろうというのだろう。

「監視役は俺らで交代する言うといたから平気やけど…」

「ありがとな。気を付ける」

「まあ俺がずっと側ににおるけどな」

「あぁ?」

オランダの言葉に、ノルウェーがガンを飛ばす。

デンマークもオランダを睨んだ。

「1人だけずっと一緒だなんてそうはいかねえべ!」

「調子乗るんでねこの」

「やかましいわ。お前らは門番でもしねま」

「おめえこそそこら辺でチューリップでも植えてろ」

「なんやとゲテモノ好きが」

「リコリスはゲテモノじゃねえっぺ!」


わいわいと騒ぎ出すオランダたち。

それを見たアルレシアは、自然と目に涙が溜まるのを感じた。


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