Middle Age II: a part of the world
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アルレシアも立ち上がり、イギリスの正面に立つ。
「お前、でかくなってね?」
「ほんとだ、ふっ、ようやく俺の時代が来たな」
にやにやと笑うイギリスの顔は自分より高いところにある。だいたい3cmくらいか。
「昔はあんな小さかったのに」
「成長したからな」
得意げな様子に、アルレシアは少しの寂しさを感じながら笑った。アルレシアの視界は、ここ100年以上変わっていない。
「フランスもデンマークもノルウェーも…みんな俺よりでかくなったな」
「…アルレシアも、伸びてはいるだろ?」
「一応な。でも、お前らほど急な伸びじゃない」
「なんか、おっさんくせぇぞ」
「うるせぇ」
アルレシアは軽くイギリスの腕をどついた。
そしてそのまま、イギリスの肩に頭を預ける。
「アルレシア!?」
「……―――置いてかないで」
「…っ、」
震える声で言うと、イギリスは押し黙る。
かつて、ローマ帝国に思わず言ってしまった言葉と同じ言葉が出てきたことに、アルレシア自身少し驚くくらいだ。イギリスは意外に思っていることだろう。
イギリスは、あんなに大きく思えたアルレシアが今は腕の中に収まるほどなのを感じて、心に言いしれない気持ちが沸き上がるのが分かった。
「…どうした?」
イギリスは自然と優しく、背中をさすりながら問い掛ける。アルレシアは、絞り出すように答えた。
「…フランスと、戦争する気だろ」
今のフランスの王朝は断絶が見込まれており、その血を引くイギリスの国王がフランス王位を狙っているのだ。
すでにフランドル地方の覇権や、フランス南西部のイギリス領を巡り深刻な対立状態にあるため、いつ開戦してもおかしくない。
そして、イギリスとフランスはそれぞれの犯罪人や敵対する人物が互いの国に亡命し、それを互いにもてなして引き渡し要求を無視するという暴挙に出ていた。
「…まぁ、な」
「…勝ち負けは、ぶっちゃけどうでもいい…でも、どっちかが消えるのは、嫌だ…」
アルレシアは、幼い頃にローマ帝国が消失したことがトラウマのようになっていた。
初めて話した同類。彼が再びアルレシアを訪れることはなく、王政になって自我を持ってから300年以上に渡る孤独を味わった。
それを知るイギリスは、アルレシアの頭をそっと撫でる。かつて、イギリス自身が周囲の人間との差異を感じて泣いていたとき、アルレシアがしてくれたようにだ。
フランスやイギリスの兄たち、さらに北欧勢も、国として通る人間との違いの実感とそのつらさを、アルレシアに慰めてもらい、支えてもらった。国はそういうものだと、しかしそれでも自分がいると、優しく言ってくれたのだ。
大きくなって、どうしても国家の未来のために武器を取らなければならない場面が出てくるようになった。
他国への干渉を行わないことを国是とするアルレシアは、そんな国たちの様子を見て恐れているのだ。また、誰かが消えてしまうことを。
付き合いの長いイギリスは、その中でも自分とフランスはアルレシアにとって特別だと分かっていた。
「消えたりしねぇよ、俺のが強いし、フランスもしぶとい野郎だしな」
だから、絶対に消えるつもりはない。自分はもちろん、フランスもだ。互いに全力でやりあうが、それがアルレシアを悲しませることだけはしないつもりである。
「終わったら、また愚痴言いに行くわ」
「…待ってる。早く終わらせろよ」
もう少しだけ待っていてくれ、と、イギリスは内心で呟く。それがまさか、100年以上続くとは夢にも思わなかったのだった。