Middle Age II: a part of the world
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イギリスがすぐ終わらせると約束し、フランスと開戦してから114年。

お前の"すぐ"は百年なのか、とアルレシアは呆れ返った。戦いはフランス国内の内戦やイベリアの国を巻き込んで泥沼化し、何度か小休止を挟みつつ結局これだけ続いたのである。

一時はフランスが消失の危機に陥ったが、結局フランスが勝って終わった。
さらにイギリスは国内で王位継承をめぐる内乱であるバラ戦争に突入した。

すでに15世紀の半ば、中世はまさに終わろうとしている。



そんな中、アルレシアの家にフランスが訪れた。




「いらっしゃい…ずいぶんボロボロだな」

「俺大変だったんだから。まぁ勝ったけど」

「上がれよ、ソファー新調したばっかなんだ」

「ありがたいね」


新しくフカフカなソファーに、傷だらけのフランスがゆっくり座る。あちこちに、薄汚れた布を巻いている。支えの木製の板も腕にくくりつけられていた。

それもそのはず、100年に渡る戦争のうち、最初の70年間はフランスは劣勢だったのだ。
特に70年目あたりでは、ペストや農民反乱で国家は崩壊しかけていた。

ワインを出し菓子を用意して、アルレシアはフランスとローテーブルを挟んで反対側に座った。


「仕方ないから祝ってやるよ。100年の戦いの勝利に」


アルレシアがそう言ってグラスを上げれば、フランスも「ありがと」と短く答える。

しばらくワインと菓子を楽しんでから、アルレシアは口を開いた。


「で?どうしてそんな元気がないんだ?…菓子がまずかったんなら謝るけど」

「アルレシアの家の菓子は大好物だよ。元気がないのは…俺たちを、勝たせてくれた女神が原因かな」

「そうか」

「…聞かないの?」

「話したきゃ話せ。お前の話も沈黙も、どっちも受け入れてやる」

「……ほんと、アルレシアって天使なくせに男前だね」


アルレシアは肩を竦めるだけだ。言葉通りの意味でしかないが、フランス的には何か琴線に触れるものがあったらしい。


「……戦況は、絶望的だった」


そしてフランスは語り始める。


「俺は上司と一緒に、オルレアンの街でイギリス軍に包囲された。孤立して、もう駄目かと思われたんだ」


開戦から70年近くが経った辺りの話だろう。


「誰もが絶望していた。そこへ、ドンレミ村の娘が現れた」


彼女の姿を思い浮かべたのか、フランスには優しい笑みが浮かぶ。


「あの子はオルレアンの軍隊を鼓舞し、上司にも喝を入れた。そして自ら兵士を率いて、イギリスの包囲を突破したんだ。オルレアンは解放され、歴史的な大勝を得た」


オルレアン解放の知らせは、アルレシアにも届いた。あの戦局で、たったひとりの少女がすべてをひっくり返したとは、信じられない気持ちだったのを覚えている。事実は小説より奇なりとはよく言ったものだ。

そこでフランスは慈しむような表情を一転させる。


「それから20年をかけて、イギリスを追いやった。勢いづいて、勝機が見えた。だけど、上司に反発する勢力がいたんだ。そいつらはあの子を捕らえ、イギリス軍に引き渡した」


フランスの、ひいては欧州全体で最も栄えていた地域、ブルゴーニュ公国のことだ。開戦時からフランスとイギリスとの間でどっちつかずな態度をとり、長い戦争の間にイギリスの侵入を撃退したこともあれば、逆にイギリスの侵攻を手引きしたこともあった。
オルレアンの戦いのあと、ブルゴーニュはフランス側の大勝を防ぐため、戦いを変えた少女を捕らえる。


「あの子はそうして、異端者として、火刑に処された。…俺たちの勢いは止まらなかったから、また20年をかけて、イギリスをほとんど完全に追放し戦いに勝った」


そしてイギリスは内戦に入り、フランスは復興に励んでいる。


「そりゃ、俺たちと違って人間は必ず死ぬ。だけど…あの子のことを、そうやって割り切れないんだ」


部屋に沈黙が下りる。


「……そうか」


アルレシアは小さく相槌をして、フランスの隣に移った。


「…俺も、ローマ帝国のことを今でも思い出す。ちょうどお前らの戦争が終わった年、東ローマ帝国の後釜であるビザンツ帝国が滅んで、オスマン帝国が建った。ローマ帝国は、完全に消えてなくなった」


1453年、ビザンツ帝国は滅亡し、オスマン帝国がアナトリアを支配することになった。
アルレシアはフランスの手を握る。剣を握りすぎて、血豆ができていた。


「ローマ帝国が消えた後、300年に渡る孤独を終えたのは、誰だか分かるか?」

「…?」

「お前とイギリスだ。最初はまだまだ小さかったけど…でも、確かにあの時俺は救われた。お前らがいて良かったと思った」


まだ小さくとも、アルレシアにとって、フランスとイギリスに会えたことは何よりの救いだった。国が周りに誰もおらず、ただ孤独を抱えていた暗闇のような時代が、急に明るく騒がしいものに変わったのだ。



「だから、次は俺の番だ。俺がお前を、イギリスもだけど、一人にしないようにする。ずっと、欠けることなく、支えてやる。だから…もう、支えられろよ」


フランスは、それを聞いて笑みを浮かべた。
泣きそうな、嬉しそうな。

今までで一番ぐしゃぐしゃな笑顔だったが、今までで一番綺麗だった。


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