Early Modern I: the crown oversea
−子分(仮)



15世紀後半にネーデルラントと同君連合を組んだアルレシアだったが、その数年後、ネーデルラントはハプスブルク家領となり、スペイン=ハプスブルク家に継がれた。

そうして16世紀始めまでにネーデルラントとアルレシアはスペインの支配下に入ることとなった。



「わぁ、おっきいなぁ」


ベルギーがスペインの家を見上げて驚きの声をあげる。


「お兄ちゃん見てぇや!庭ごっつ広いで!」

「やかまし」

「本当に大きいですね」


ルクセンブルクも、見慣れない建築様式の屋敷を見上げる。そんな兄妹の後ろで、アルレシアは初のスペイン家を見渡す。スペインがアルレシアの家に来ることはあったが、アルレシアがここへ来たことはない。


「よう来たなぁ!」


すると玄関からスペイン本人が現れた。


「あ、スペインさん、ベルギー言います、よろしゅう!」

「僕はルクセンブルクです」

「おーよろしゅうな!俺んことは親分でええで!」

「親分、かぁ、かっこええなぁお兄ちゃん」

「どこがや。俺は呼ばへん」


オランダは挨拶もせずそっぽを向く。ルクセンブルクは苦笑して、手招きするスペインのもとへ歩きだした。


「もーお兄ちゃんたら…アルレ兄ちゃんもはよ来て!」

「あぁ」


ベルギーに呼ばれアルレシアもスペインたちの方へ近付く。
ベルギーのアルレ兄ちゃん、という呼ばれ方は新鮮でくすぐったい気持ちになる。ルクセンブルクもアルレ兄さんと呼んでくれていた。
昔からそうだったが、ベルギーは可愛くて素直で、いい子だ。ふわふわの髪につぶらな瞳、可愛らしい顔立ち。
ルクセンブルクも、左目を前髪で隠しながらも清潔感のある凛凛しい顔立ちだ。

オランダの妹や弟とは信じられない。まぁ、実際民族が異なるため血は繋がっていないのだが。



―――あれから、オランダとは一切口を聞いていなかった。

ベルギーは雰囲気を感じ取り戸惑っており、ここへの道中もルクセンブルクは話しながら気付かないふりをしていた。

迷惑をかけてしまった。
玄関へ向かうと、先に入ったネーデルラント組を通してからスペインが出迎えてくれる。


「久しぶりやな!」

「あぁ。海外で調子いいらしいじゃねえか」

「おかげさまでなぁー!アルレも俺んこと親分って「呼ばないから」えー」

スペインはふて腐れる。1000年以上の年の差があるのだ、仕方ない。


「俺親分やんか」

「俺より年下のくせに親分?はっ、笑止」

「うわ傷付いた」

「嘘つけ」

「あ、バレてもうた?」

「当たり前。まぁ俺に認めさせたら呼んでやるよ。だから子分(仮)な」

「アルレのデレやぁ。ええなぁやっぱ」


スペインは何が嬉しかったのかアルレシアを抱きしめる。暑苦しい。


「おいやめろアホ」


引きはがそうとしていると、不機嫌な声が聞こえる。


「はよ案内しねま」


玄関から少し入ったところからオランダがこちらを睨みながら言うと、「すまんなぁ」と笑いながらスペインは離れた。


「なんだあいつ」


家に入って行く彼らを見ながら、小さく呟いた。


***


スペインの家は快適だった。
気候は暖かく食事もおいしい。

アルレシアは仕事をしながら、まだ幼い南イタリア、ロマーノと遊んだりベルギーと菓子を作ったりと楽しいこともある。

屋敷の人々もラテンらしく陽気で、隔てなく接してくれる。


何を一番感じるかと言えば、オランダの家との違いだった。あの数年間が嘘のようだ。

笑顔も戻ったと思う。

ただ、オランダとはやはり会話はない。食事の席でも話さないし、廊下ですれ違うときも目すら合わさない。

特にそれに何か思うわけでもなく、本国もスペイン領となってから何の変化もないということだ。
キリスト教の普及が始まっているくらいらしい。

呆気ないほど、生活はマシになっていた。

そしてそれは、誰にも悟られていないと思ったのだが。


「最近、元気そうやね」


ある日、スペインと二人でリビングにいるとそんなことを言われた。


「…、変わんねぇよ」

「嘘やね。家来たばっかんときより、元気ええよ。細かったんもマシになっとるし」

「細かったか?」

「めっちゃな。痩せたんやな、って思うた」


まさか見抜かれていたとは。
アルレシアは目を泳がせながら曖昧に相槌をした。そこまでスペインが鋭いとは、普段のほのぼのとした感じからは予想だにしなかったのだ。


「―――オランダに、何されたん?」


硬質な声に顔をあげると、真剣そうにスペインがこちらを見ている。
その緑の目は、どこか昏い。


「…、何も」

「嘘ばっかや。アルレ、言ってくれんと俺どうもできひん。理由なしに領邦ひとつ潰すんは心証悪いねん」

「は…?」


まさか、


「オランダを潰す気か?」

「アルレんこと傷付けたんやったら滅びるべきやろ。やってアルレは一人でおるんが一番つらく感じるんに一人にしとったんやから」


聞いておきながら、こいつはすべて知っている。オランダがアルレシアに何をしたのか、知った上で聞いているのだ。

アルレシアが認めればスペインはオランダを潰すのだろう。

オランダは確かに貿易で大きな利益を上げ栄えている国だ。だが、まさに"太陽の沈まない国"になろうとしているスペインには敵わない。

本当に消えてしまいかねなかった。


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