Early Modern II: cannot be independent
−過去と清算
休戦条約を結び、アルレシアはオランダの家に戻って来た。100年以上ぶりだ。
使用人は皆入れ代わり、まったく違う場所のようだった。
雰囲気が、何より明るい。
「アルレ迎えるんに、使用人雇い直したんや」
エントランスで辺りを見渡すアルレシアに、オランダは微笑みながら言う。
「…ありがとな」
オランダ自身の態度も変わったからか、使用人たちは親切だ。まるでアルレシアを二人目の主人としているようだった。
「いや…最初からこうすべきやった。…悪かった」
本当に申し訳なさそうにするオランダ。きっとこれからもずっと、こうして後悔し続けるのだろう
「いいってもう。たった数年だったし。それより、これからいつまでこの状態かわかんねえんだしさ、新しく思い出作ってくつもりでいこうぜ」
「ん、せやな」
そのままアルレシアはオランダに部屋へ案内された。道中に以前とは違う部屋だと聞いていた、のだが。
「おいオランダ」
「なんや」
「俺の目に間違いがなければここはお前の部屋だよな?」
「俺とお前の部屋やざ」
「…、…、」
動揺のあまり言葉が出て来ない。
なぜ、という問いだけが頭の中を駆け巡る。
ここは昔のオランダの寝室で、そして、これから2人の寝室になるのだという。ベッドは、ひとつ。
「嬉しさで言葉も出えへんか」
「とりあえず殴っていいか」
おーこわ、と棒読みで言いながら、オランダはアルレシアから奪っていたバッグを部屋に置く。
「心配せんでもベッドは二人分あるさけ」
「当たり前、」
「広さがな」
「よし殴る今殴る」
こいつはふざけているのか、と頬が引き攣った。広さの問題ではない。オランダはまったく気にしていない様子だった。
「腕枕でええか、ええな」
「いいわけないだろ変態」
なんだろう、会わなかった反動か、やたら積極的だ。無表情で声音も変わらないのに、言っていることはアルレシアの常識の範疇にはない。
「ほう言うても枕ないで」
「買いに行くぞ」
「一人でか?」
「は?お前も一緒に決まってんだろ」
「…ほういうとこやざ」
「なにが」
「なんも」
(ほういうとこが、好きやざ)
口には出さずにはぐらかす。
納得のいかなさそうなアルレシアの額にキスを落としてから、「上司んとこ行ってくる」とオランダは立ち去った。
「〜〜〜っ!」
顔を真っ赤に染めたアルレシアを残して。
***
それから少しして、アルレシアでは直属の上司が交替した。直属の上司とは、連邦総督代理という役職で、オランダ側から派遣された代表である。
そもそも、このときのオランダは少し特殊な国だった。ネーデルラント連邦共和国という国名ながら、実質それは連邦総督による王政である。
ただ、一応は共和政のため、アルレシアは王位を総督ではなくオラニエ家に属する形にした。つまり、総督=王ではなく、オラニエ家=王という仕組みにしたのである。
その王の代わりにアルレシアへオランダから来るのが総督代理という役職だ。
もともとアルレシアの政治は、同君連合期間中は王府の枢密院という議会で行われるため、そこに加わるのである。ほとんどオランダにメリットはない。当然スペインも自由な政治はアルレシアで行うことはできなかったし、それを求めることはしなかった。
大規模な経済を抱え、統治者には経済に関する卓越した知識が求められるこの王国は、直接支配するには手に余るからだ。
オランダ独立戦争が激化するとアルレシアに対するスペインの圧力が増したため、枢密院はオランダ側につくことを決めた。
今回、アルレシアとオランダはその連邦総督代理が交替するにあたり、その記念式典に参加することになっていたため、一路アムステルダムからレガリスタードへ向かった。