Early Modern III: bill rather than kill
−3
1654年。
第一次ウェストミンスター条約が結ばれ、第一次英蘭戦争は終わった。
条約の内容は、オランダの航海法の承認、賠償金の支払い、オラニエ家の追放、そしてアルレシアのイギリス割譲だ。
オランダの家を離れるため、アルレシアは一度荷物をまとめに戻る。
オランダも一緒だが、その顔は沈んでいた。
「悪い…」
アルレシアが寝室で荷物をつめていると、ぽつりとオランダが漏らした。
「謝ることじゃない。しょうがないことばっかだったんだから」
そう、どうしようもなかったのだ。今回は完全にイギリスの勝ちだ。
「俺の自治も許されてる以上、お前も被害は少ない。これも時代だって」
とは言え、200年に渡り、一時断交状態だったが、一緒だったのだ。寂しさはある。
スペインから独立してから、ここで50年を共に過ごし、その時間は幸せだった。
「遊びに来ていいか?」
「そのまま住んでええ」
アルレシアはそれに笑い、浮かないオランダの顔を手で挟む。精悍な顔に浮かぶ寂しさに、このポーカーフェイスでクールな男がそんな顔をするのかと、しかもそれが自分相手であるのかと思うと、アルレシアも少しドキリとする。
「俺たちは世界に身を任せるだけだ。色々あるもんだぜ?」
そう言ってから手をオランダの首の後ろに回して抱き着き、胸元に顔を押し付ける。以前よりさらに身長が伸びたのか、アルレシアはすっかりオランダの鎖骨が目線になってしまった。
「ありがとう、オランダ」
「…こちらこそ」
オランダはアルレシアの背中に手を回す。
この低い体温もしばらくおさらばだ。
ふと、アルレシアは強引に一緒寝させられた日々を思い出す。なんだか夫婦のようで、何やってたんだ、と馬鹿らしくなり、おかしくなった。
笑い出すアルレシアに、オランダが不思議そうにする。
「いや…なんだかんだ50年、一緒に寝たり色々したなぁってな。変なの」
肩を震わせるアルレシアを見て、オランダはその頬に指を這わす。
「アルレ…」
「ん?」
「…一緒に暮らさなくなっても、一番お前を想っとる」
「ばか、一番に思うのは国民だろ」
微妙にニュアンスを汲み損ねるアルレシアが、そんなところまで愛おしく感じる。
「…お前に会えて幸せやざ」
「こっ恥ずかしいこと言うな…!」
アルレシアは照れて離れてしまった。直接的な言葉に弱いのはオランダもよく知るところだ。
「行くぞ」
しかし、アルレシアはやはり当たり前のように声をかける。無条件に一緒にいてくれるアルレシア。
オランダは、涙腺を補強するように目を閉じてから、しっかり頷いた。