Modern: Revolution for Revolution
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「…アルレシア?何やってんだ?」


声をかけたのは、イギリスだ。



実は、イギリスにはアメリカと貿易していることは言っていたが、対等なものであるとは言っていなかった。

アメリカは当然儲かって力をつけるわけで、イギリスの反対は目に見えていたからだ。

「貿易だけど」

「そうじゃねえ。その封筒の厚みはなんだよ?」

明らかに察しがついている。

イギリスは眉を寄せてアルレシアを睨みつけた。

「やっぱアルレシアが対等な貿易をしてたんだな。だから収支が合わねえと思ったんだ」

「何か悪いかよ?」

こそこそしてはいたが、そもそもアルレシアは自由と自治が許されており、とやかく言われる必要はない。

「アメリカはまだ若いんだ、そんなことする必要ねえだろ」

「だからてめえに関係ないって言ってる」

「イギリス!アルレシアを責めるのはお門違いだ!」

アメリカはアルレシアを庇うようにその前に立ち、イギリスと向き合う。

「そいつだって俺の支配下にある国だ。当然だろ」

「なぁ、そういうのやめろよ。ローマ帝国からずっと世界を見てきた俺からして見れば、お前のやってることは破滅の道だ。抑圧や差別が産むのは争いだけだ」

アルレシアはアメリカの陰から出て、イギリスに近付く。

「うるせえな、時代は変わったんだ。お前こそ綺麗事ばっか言ってないで現実見ろよ。世界の中心は俺たちヨーロッパだ。進んだ文明が他の遅れた文明を正すのも優しさだろ?」

イギリスは意に介さず、アルレシアを見下ろす。いや、見下す。

200年以上他国の支配下にあるアルレシアを、イギリスは遅れたものと見なしているのだ。

「…あっそ」

アルレシアは、ひどく渇いた声でそれだけ言い、立ち去った。

「…見損なったよ、アルレシアが何をしたって言うんだ」

アメリカもそう言って帰って行った。








「…くそ、」



イギリスは広い空を見上げる。

口をついて出て来たあの言葉は、本心だろうか。


だったら、―――自分が怖い、と感じた。

歴史の中で、自分がこれから何をしていくのか、漠然と不安に思った。


***


1740年。
オーストリアで女帝・マリア=テレジアが即位すると、プロイセンはそれにかこつけオーストリアの大事なところを奪いオーストリア継承戦争が勃発した。

イギリスはオーストリアを支援し、アメリカでジョージ王戦争としてフランスと戦争を始める。


アルレシアはあれからイギリスと口を聞かず、顔も合わせていなかった。

アメリカとは貿易を続けたが、イギリスにだんだんと阻害されるようになり、決定的な溝を確認する。



オーストリア継承戦争は1748年にプロイセン優位で終わり、1756年から1763年にかけての七年戦争でもプロイセンが優位にことを進めた。

一方アメリカではフランスが敗退しイギリスの優位が確定したが、負債を負ったイギリスは重税を植民地に課した。





そしてそれは、アルレシアにも課された。


イギリスの突然の強硬な政策は、アルレシアを傷付けるには十分過ぎた。

国内経済は急激に悪化し、戦争が続いたヨーロッパ相手にモノは売れず、アルレシアは深刻な不況に陥ったのだ。

それでも、もっと酷いのはアメリカであるため、アルレシアは心配してアメリカへ向かった。


1774年のことだった。








「アメリカ、元気にしてるか」


広大な土地にぽつんと建つ家を訪ねると、アメリカは疲れた様子で出迎えた。

「あぁ…アルレシアか…元気ではないかな」

「…独立の動きがあるからな」

アメリカはそれを聞いて驚いた表情をする。

「何で知ってるんだい?」

「あ、ほんとなんだ」

「えっ…」

してやられたアメリカは、口を尖らせた。

「なんだ、そういうことか…よくないんだぞ…」

「はは、悪い」

「まあ立ち話も何だし上がりなよ」

アメリカに促され、二人はリビングらしき部屋のソファーに越しかけた。

一つしかないため、自然と並んで座る。


「…もう、イギリスの弟でいるだけなのは嫌なんだ」

ぽつりとアメリカが漏らす。

「うん」

「…認めてもらいたい」

背もたれにもたれ、手を明かりに翳す。

それを見てアルレシアは口を開いた。

「俺も…考えてる」

「独立を?」

「あぁ」


最近のイギリスとは、合わない。

アルレシアにとって、一緒にいたい存在ではなかった。

「…昔からの仲だったんだろう?」

「あぁ。…1000年以上になるな」

「年寄りは違うな」

「うるせぇ…でも、今はダメだ。…しばらく距離を置かないと、この先ずっとダメになる」

アルレシアは膝を抱え、顔をそこに埋めた。

「…不器用だなアルレシアは」

アメリカはゆっくり上体を起こし、アルレシアの肩を抱いて引き寄せた。

「悲しいならそう言えばいいんだぞ」

アルレシアは大人びたその態度に感慨を覚える。

百年戦争の前、大きくなったイギリスに感じたようなものだ。

「……あいつにこんなことされて、悲しい。あんなこと言われて悔しい。……そんなんで、離れたくない」

大事なイギリスだからこそ。

見下されたり、重税を課されたり、それを原因に喧嘩を売ったり。

そういうことをしたくなかった。


だが、それをする時代に来たのだ。



「アメリカ…独立しよう」



「…あぁ」

アメリカは、震える肩をなだめるように、強くアルレシアを抱きしめた。


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