Contemporary I: devil’s warfare
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「セーフ!」
机に置かれた書類に目を通そうとすると、隣にデンマークが騒がしく座った。
「ギリギリだな」
「地下鉄で迷っちまって…ってアルレシア!?」
「あんこうるせ」
隣に座るアルレシアに気付いたデンマークは驚いてこちらを見た。
ノルウェーもいつもの軽口を叩きつつ、眉は上げているから驚いてはいるのだろう。
「珍しいこともあるもんだっぺ…」
「変わりねえか」
ノルウェーは薄く微笑みながらアルレシアを見る。
「大丈夫。ノルウェーも元気そうで良かった」
「俺は?」
「デンマークはいつも元気だろ」
「違いねぇ!」
笑うデンマークに、アルレシアは呆れたように笑う。
「静かにしねま」
アルレシアの反対隣に座るオランダがデンマークを横目に見ながら言うと、デンマークは意に介さず「オランダも久しぶりだっぺ!」と豪快に笑った。
オランダのこれも挨拶代わりだから本気ではないようだが、うるさいにはうるさいらしく顔はしかめていた。
「シワできるぞ」
アルレシアがオランダの眉間をぐりぐりと指で押すと、オランダはアルレシアの頭を乱雑に撫でた。
「ちょ、何すんだ」
「邪念を払っとる」
「は?」
「相変わらずの天使!」
「あんこうぜ」
アルレシアは収拾がつかない状況に口元が引き攣ったが、アメリカの大きな声ですべて遮られた。
AKYパワーである。
「よし、じゃあ世界会議を始めるぞ!今日は食糧価格の高騰についてみんなの意見を聞かせてくれ!ちなみに俺は世界中でトウモロコシを大量生産すればいいと思うぞ!もちろんアメリカン・スケールだ!」
「私はアメリカさんと同じでいいです」
「日本!何度自分の意見を言えと言ったら分かるんだ!」
「現実味がなさすぎるだろばか!」
「お兄さん自給率100%越してるからパスー」
「てめぇ髭野郎また自己中なこと言いやがって!」
「イギリスだっていつも自己中だろ眉毛野郎!」
「みんな中国産買えばいいある!」
「先生のやつ爆発しますよ的な」
「パスター!」
「オランダ、」
「ん」
「…いつもこんななのか?」
「……まぁ」
「あー!今日はアルレシアがいるんだった!」
突然、アメリカが大きな声でこちらを指差した。
騒ぎが静まり、会場の国たちの視線が集まる。
それくらいで動揺するわけではないが、居心地は悪い。
「アルレシアはなんかあるかい?」
「え…いやまぁ、長期的なスパンだと環境問題を先に何とかした方がいいんじゃねえかとは思うけど」
「まともだ…」
誰かの呟きが響く。
「さすがアルレシアなんだぞ!これで早くドイツと仲直りしてくれたらEUの経済も良くなるんだけどどうだい?」
「っ、」
「ばっかおまえ…!」
イギリスは慌ててアメリカを窘める。
それは事実だ。事実を突かれ、ぎしり、と心臓が嫌な音を立てた。
(やめろ…)
「なんだいイギリス。それより、ドイツはどうなんだい、そこのところ」
(聞くな…)
「…、アルレシアは俺のことが嫌いなんだ、無理はさせない方がいいだろう」
ドイツが真剣な面持ちで言った言葉が、アルレシアの感情に響く。
心に、体の中心に、どろどろとした冷たい何かが垂れる。
頭の中が真っ白になった。
(…違う、)
「違うっ!!」
アルレシアの叫びが会場中に響き渡った。
アメリカもドイツも、言葉を放ったアルレシアでさえも驚いた表情をした。
アルレシアは思わず口をついて言葉が出たことを悔やんだ。
本心を吐いたということは、認めるということだ。
―――ドイツのことは嫌いなんかじゃない。
ドイツに会うのが嫌なのは、避けたいと思うのは、ドイツを嫌いじゃないのに無視しなければならないからだ。
嫌いじゃないのに、無視して来たからだ。
「てっきり嫌いだと思ってたんだけど違うようだね…ドイツはどうなんだい?お互い嫌いじゃないならさっさと仲直りしちゃえばいいんだぞ!」
アメリカはそう続けたが、ドイツは少しの間を置いてから、口を開いた。
「……―――俺は嫌いだ」
しん、と会場が静まり返った。