Contemporary I: devil’s warfare
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痺れを切らしたのか、ノルウェーは一歩前に出てアルレシアを抱きしめようとした。
「何やってんねや」
が、低くオランダが唸り、アルレシアは後ろへ引っ張られる。
「わっ、」
後頭部に固い感触がし、オランダに後ろから抱きしめられていると分かる。
途端、ノルウェーの顔が険しくなる。
「邪魔すんでね」
「邪魔やない、保護やざ」
二人の間には火花が散る。
「いや、何しに来たんだ全員…」
完全にアルレシアは置いてきぼりであった。
***
オランダとノルウェーを落ち着かせ、リビングで全員ワインを軽く飲んで冷静にさせると、再びアルレシアのことを気遣い始めた。
「大丈夫なん、ほんま」
スペインは心配を全面に出し、眉を下げて問う。
「アルレシアはいつも大丈夫って言うからねぇ」
「けんども、いっつも無理ばっかだ」
「その通りだべ」
フランス、ノルウェー、デンマークにも重ねられるが、アルレシアは「大丈夫だって」と繰り返す。
「今朝だって、ちょっと夢見が悪かっただけなんだから」
「それがあの会議の影響やろ」
「うっ…」
返す言葉もないが、イギリスは首を傾げた。
「なんか悪い夢でも見たってことか?」
「悪夢とかそういうのに反応する癖やめたらどうなんだい、イギリス」
「うるせえな!そうじゃなくて、影響が夢になって出るってどういうことだって話だ」
他の面々もそれは不思議なようで、アルレシアに聞きたそうな目を向ける。
オランダは無理するな、という目配せをくれたが、大丈夫、とアルレシアも頷く。
「お化けとかそういうんじゃなくてな……あの日の夢なんだ。首都が空爆された、あの日」
その言葉ですべて合点したのか、全員複雑そうな顔をする。
「そういえば、確かにあの次の日と同じような顔してたね」
フランスが言っているのは、今日フランスと顔を合わせたときのことだ。
玄関を開けたとき、フランスはアルレシアを見て心配そうな表情を深めた。
「そういや、空爆の次の日にフランスとイギリスと会ったんだっけな」
イギリスも頷く。
「俺も、いつか見た感じだと思ったんだ」
「そうだったのけ?初めて知ったっぺ」
当時ドイツに占領されていたデンマーク、ノルウェー、オランダは知らないのだろう。
中立だったスペインもだ。
「あーくそ、やっぱあの会議のこと納得いかねえ」
イギリスは頭を掻きながら苛立った声を上げた。
「…ドイツは悪くない」
しかし、アルレシアははっきりそう言った。
「…アルレシア…」
「そう言ってくれんのは嬉しいけど。あれは、誰かのせいじゃない。―――戦争に、正義なんてありはしないんだ」
どこか遠くを見つめながら言うアルレシアに、アメリカは顔を曇らせた。
「…お兄さん、もう一回言うけど。アルレシアがあの時言ったことは、正しかった」
あの時言ったこと。
全員がすぐ何か分かった。
「二月革命が三月革命として広がっとったときには、気付いてたんやろ」
「漠然とだけな」
フランスから広がった三月革命。
ウィーン体制の崩壊を意味したそれは、新たな潮流を生んだ。
プロイセンがさらに力をつけ、そして、ドイツが生まれた。
「まぁ、過ぎたことだし。…俺、そろそろ帰らなきゃ」
アルレシアは立ち上がる。
「ありがとな、みんな。オランダも泊めてくれてありがと」
「住んでくれてええで」
「まだ言ってんのかよ」
笑って、アルレシアは手をふる。
「じゃあな」
一同も手を振り返すが、扉が閉まると、どこからともなくため息が漏れる。
「下手くそな笑い方」
フランスの声が、全員の気持ちを代弁した。
「…ごめんな、ドイツ…」
高く広がる青空に向けて、言葉を放つ。
近代的なビルが建つ首都を見て、アルレシアは70年前の同じ場所を思い出そうとした。
だが、たくさんの記憶が邪魔をする。
「順番に思い出すしかねえか」
あの革命の後、首都の景色がどんどん変わっていた時代から。
忘れた記憶は、ない気がした。