Contemporary I: devil’s warfare
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そうは言ってもやらねばならないことは山ほどある。
その一つ、イギリスとの友好のため、アルレシアはロンドンへやって来た。
直接ロンドンまで来たのは、独立以来初だ。
産業革命で随分と大きく、そして汚くなった。
空気が悪く、道路にも柄の悪い人間がたむろする。
スモッグが立ち込め、視界が不明瞭だ。
そんな街の中、イギリスの屋敷に到着し、ベルを鳴らす。
「誰だ…ってアルレシアか」
少し驚いたようなイギリスに、アルレシアは「よお」と手を上げる。
「どうしたんだ急に」
「んー、まぁ根回し?」
「…敵にはなりませんよ、って話か?」
アルレシアはイギリスの察しの良さに苦笑した。
「早い話、そういうことだ」
「大胆に政策を転換した割に慎重だな」
「大胆に変えたから慎重なんだよ」
アルレシアがイギリスへ来た理由、それは、複雑化する情勢の中でイギリスと敵対しないことを示すことだ。
そうしなければ、ロシアとの貿易に不信を抱かれる。
「まぁ、俺もアルレシアに使者を送ろうと思ってたんだ。あまりにロシアと近いからな」
すでに若干の不信感はあったようだ。
「お前が一番、俺のこと知ってるだろ」
だがアルレシアは笑う。
それを見てイギリスも、呆れたように笑った。
「金、だろ?戦争は金にならないか?」
「なんねえな」
きっぱり断言すれば、イギリスも信じてくれたらしい。
「俺はしばらく誰ともつるまねえ。アルレシアでも」
「分かってる。争いには首突っ込まない。ただ、同盟を結ぶようなら話は別だ…もし同盟相手に何かあれば、俺も戦わないといけない」
「それが普通だろ。アルレシアは間違った相手とは組まないだろうし、割に合わなきゃ同盟破棄しそうだからな、心配はしてない」
「なんかお前、俺のことけなしてるだろ」
「さあな?」
アルレシアは軽くイギリスを殴っておいた。
イギリスと話をつけたアルレシアは、開国して力をつける日本、そして列強対立が最も激しい中国へ向かうことにした。
しかしこれはアジア貿易を強めるというより、情勢の見極めの方が正しい。
アジアはやはり遠く、アルレシアの国家規模からすると、ヨーロッパ本国の中継貿易で十分ではあったからだ。
まず日本に行き、列強の一員になるのかどうかを調べる。
次に中国へ行き、列強対立の最前線を見てこの先の展開を予想する。
一番気掛かりなのがロシアであるため、その動向を特に注視するつもりだ。
日本の首都、東京に着き、すっかり西洋風となった街を歩く。
煉瓦の建物が並ぶ中を、着物や洋服の人が入り混じり、桜が美しい色を咲かせる。
「あいつはほんとに文化の折り合いが上手いな…」
中国が「勝手に漢字ばらして文字作りやがったある!」と相談してきたときを思い出す。
中国の周りは幼少期が可愛い国が多かった分、今はいろいろと寂寥があるだろう。
フランスも小さい頃は可愛かったな、と思いながら、待ち合わせをしている銀座で日本の姿を見つけた。
「悪い、待ったか」
「いえ、私も今来たところです」
多分嘘だが、まぁそれが美徳なんだろう。
アルレシアは頷いて歩き出した。
「すごい変わったな」
「はい。私もついていくのに必死で…」
「年寄りくせえぞ」
「アルレシアさんは私より年上なのに、若々しいですね」
「そうか?日本も見た目は幼いだろ」
「欧米の方によく言われます」
話しながら、二人は馬車に乗る。
今日は東京市の郊外、神奈川県北部(現多摩南東部)にある養蚕施設を見学することになっている。
日本産生糸は質が良く、重要な貿易商品だ。
すると、近くに別の馬車が止まり、貨物用の荷台から人が突き落とされるように降りた。
「あれは…」
「…会津の方でしょう。取り潰しの後、あちこちを転々とする人々もいるようです」
「内乱が終わって、まだそんな経ってないんだったな」
「ええ…」
日本も国の統一に向けた内乱が終わったばかりで、イタリアやドイツと同じく、今が発展の途上だ。