Contemporary I: devil’s warfare
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それ以上は突っ込まず、とりあえずヨーロッパの近況を話しながら馬車に揺られた。
二時間ほどして、馬車は洋風の工場の前に止まる。
「これか…」
施設はまだ初期のものだが、働く人々の活気に満ちている。
「ここで作られたものを輸出し、その金を資本に新たな工場を建てています」
「よく短期間でこんな人数が働けるようになったな…」
「引きこもっている間、教育を行っていましたから」
江戸時代から日本では一般民衆に教育を行っていた。
それは欧米ではありえないことで、開国時、日本の教育水準は世界最高のレベルにあった。
開国後の立ち回りや政治という大きなことから、工場の経営や労働など小さいことまで、字が読める、算数ができるという人々により上手くいっていた。
よく見れば、機械や人々の道具もよくできていて、技術力の高さも伺える。
(やっぱり…日本は列強に入るな)
これは確信だった。
ただ、追いつけ追い越せの風潮は、どこか危ない感じもした。
いつか、焦って選択を間違えそうな感じだ。
「…期待、してる。日本なら、上手くやれるさ」
「?、ありがとうございます」
よく分からなさそうな日本だが、今はそれでいい。
胸に蟠る一抹の不安を隠し、日本と商談に入った。
***
日本を出国し、アルレシアは続いて中国へ向かった。
すでに1860年までに中国は11港を開港しており、列強が沿岸部から資源地帯を奪っている最中だ。
アルレシアは事前にイギリスに頼んで、香港から入国することにしていた。
他の港はかなり治安が悪く、1842年からイギリス領になっている香港は比較的イギリスの統治が進んでいるからだ。
イギリスは香港自身に迎えに行かせると言っていたため、港で香港を待つ。
「うわ、マジで美人過ぎなんですけど」
賑わう港を見ていると、そんな声がかかった。
振り向くと、香港だろう、チャイナ服に身を包んだ長身のイケメンが立っている。
「香港か?」
「そうですよ的な」
「…、俺はアルレシアだ。よろしく頼む」
「いろいろよろしくしていいですか」
「いろいろ?」
「…こういうこととか?」
そう言って香港はアルレシアの腰をするりと撫でた。
「イギリスから何輸出してんだアホ」
昔中国から聞いた純粋無垢な少年のイメージが瓦解し、イギリスが悪影響を与えたであろうことが容易に想像できた。
「three decadesくらいイギリス領だから好みも被りますよ的な」
「じゃあイギリスだと思って殴っていいんだな」
「それは暴論、」
「それならお前もそうだ」
言い返せなくなった香港に小さく笑って、むすっとした顔を見上げる。
「鉄道まで案内してくんね?」
首を傾げるアルレシアに、香港は目を逸らした。
「…、あいつらのfeelingもわかる」
「ん?」
「なんでも?案内すりゃいいんでしょ?」
聞こえなくて聞き返すアルレシアにはぐらかし、香港はアルレシアを駅へ連れて行った。
しばらく歩き、イギリスが建てた駅に着く。
「これに乗って、南京で乗り換えればつけますよ的な」
「分かった。ありがとな」
すると、香港はアルレシアの額にキスを落とした。
ちゅ、と音がしてから離れる。
「お礼、これでいいんで。じゃ」
アルレシアが呆然としているのをいいことに、香港はさっさと帰っていった。
「……、イギリス殴る」
とりあえずそう決めて、釈然としないまま汽車に乗り込んだ。