Contemporary I: devil’s warfare
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ドイツの提案に、一瞬息が詰まった。
それは、かなり理想の提案だったからだ。
だが一度中立侵犯に関する布告を出している以上、撤回はできない。
「悪い。俺と戦いたくないなら中立侵犯はしないことだ」
「…そうか」
ドイツは諦めて立ち上がる。
「…本当に、開戦する気か。とんでもない戦争になるんだぞ」
「分かっている…なに、クリスマスまでには終わる」
「…クリスマスまでに俺を侵略しようってことか」
アルレシアが敵である限り、ドイツが本土から海上へ出る術はない。
今、アルレシアがイギリスにもドイツにも領海の自由航行を許しているからドイツは外海へ出れるのだ。
つまり、アルレシアをどうにかしなければ戦争は終わらない。
「…悪い」
ドイツは出て行こうとする。
思わずアルレシアはその広い背中に抱き着いた。
止めたかっただけだが、ドイツが屈強過ぎてこうする他なかった。
「ドイツ…俺はお前のことも大事に思ってる。お前を傷付けたくないんだ」
「……こうするしか、ないんだ」
ドイツはアルレシアを放し、家を出て行った。
「なんで、止められないんだ…」
まるで、神が操っているようだった。
それほど、人々にはどうしようもないくらい、急速に開戦へと進んでいった。
6月、オーストリア皇位継承者夫妻が殺害されるサラエボ事件発生。
7月、オーストリアはセルビアに対し最後通牒通達。
同月、オーストリア対セルビア宣戦、ロシア総動員令発令。
ロシア総動員が完成する前に、ドイツはシュリーフェン・プラン発動。
8月1日、ドイツはベルギーに通行要求、2日にロシア、3日にフランスへ宣戦し、4日、イギリスはドイツへ宣戦した。
第一次世界大戦の始まりである。
***
8月4日の朝。
ドイツの通行要求以来ピリピリしていたベルギーは、その一報を聞き、ベッドから飛び起きた。
すぐ軍服を着て、リボンすら着けずに急いで司令室に走る。
「ドイツが来たゆーんはほんまなん!?」
「ほんまです!」
電報を受けとった兵士が敬礼しながら返答した。
「リエージュの東から侵攻しています!」
「なんやねん…!すぐイギリスさんとアルレ兄ちゃんに連絡したって!」
「はい!」
ベルギーはすぐリエージュへ向かうことにした。
少しでも止めたい、もしくはここで留めておきたい。
ベルギー軍はリエージュでドイツ軍と対峙した。
「こっから先は行かせん!」
「悪いが通させてもらう」
それを合図に両軍は交戦する。
しかし、ドイツ軍は強く、数が多い。
敗色は濃厚だった。
「駄目や、このままやっても勝てへん…!いたずらにみんなを死なせとうない…」
負けると分かっていて、これ以上戦っても傷付くだけだ。
「総員撤退!帰りがけに鉄道も道も橋もみんなぶっ壊すんや!」
ベルギーは撤退しながら、トンネルや橋を爆破していく。
少しでも侵攻を遅らせたい。
きっと、近いうちにこの国は制圧される。
だけど、諦めたくはなかった。
頭にアルレシアの顔が浮かんだ。
「迷惑かけてまうな…」
爆音が響き、ドイツ軍が迫る。
「ごめんな、アルレ兄ちゃん…」
後頭部に、冷たいものが押し当てられる。
「ドイツ、あんたは負ける。アルレ兄ちゃん敵に回すんやからな。あんたの負けたときの顔が浮かぶわ」
「…、どうだろうな」
「ウチはあんたなんかに支配されん!」
精一杯、背後のドイツを睨みつけた。
ドイツは顔色を変えることなく、ベルギーを連行した。