Contemporary I: devil’s warfare
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3月にはロシアで革命が勃発し先行きに不安が見られたが、4月にアメリカが連合側で参戦を発表して期待感が生まれた。

だがヨーロッパへ来るのに時間がかかるため、しばらくは東部戦線での激戦が見込まれた。


その東部戦線のバルカンでは、革命でロシアの干渉が弱まり、セルビアは完全に制圧されようとしていた。

そこでイギリスとフランスはギリシャに頼み込むことにした。

中立であるギリシャが参戦すれば情勢が変わるからだ。

「ねえギリシャ、お兄さんたちと戦おうよ」

「このままじゃお前も制圧されるぞ」

「…気分じゃない…」

「でもさー、ブルガリアに勝ったら、トラキアもらえるよ?」

「…、ほんと?」

「あぁ、約束する」

「お兄さん先コルフ島ゲットー」

「あっ、おい髭なにやってんだ!」

ついにギリシャは連合側で参戦し、バルカンの情勢は変動を始めた。





一方アルレシアは、ドイツのUボートにより壊滅的な打撃を与えられていた。

時期は11月、気候も寒くなり、この貧しさでは凍死者が多数だ。

だが、熱を出しながら戦況を見守るアルレシアの屋敷、そこに来客がやって来た。


「え、ノルウェーにデンマーク…」

やって来たのは、中立のノルウェーとデンマークだった。

「なんでここに…」

「しー。アルレが大変だっつーからよ、物資持って来たんだっぺ」

辺りを伺いながら、デンマークがトラックを指差す。

「武器は無理だけんど、食い物や油はやれっから」

ふ、と微笑みノルウェーはアルレシアの髪を梳く。

「内緒」

二人の優しさに、涙腺を慌てて引き締めた。

「…ありがと。でもいいのか、中立なのに」

「スヴェーリエもフィンに義勇兵送んの黙認してっからよ」

ロシア革命により、フィンランドは民族運動と社会主義の対立などで複雑な内戦状態になろうとしている。

スウェーデンは義勇兵がフィンランドへ行くことを黙認していた。

ノルウェーとデンマークも同じなんだろう。

「ほんとありがとう…」

「いいってことよ!じゃあノル、早く行くべ」

「ん。じゃあな」

アルレシアは二人に手を振って見送った。

残されたのは大量の物資。

「頑張んねえと」

優しさを無駄にしないためにも。

まずはこれ以上被害がないように。

アルレシアはすぐに動き始めた。


アルレシアはまず、参戦したアメリカに連絡した。

『もしもし、どうしたんだい?』

「めっちゃかっこいい武器を安くしてやるからさ、買わない?」

『かっこいいのかい?なら買うんだぞ!』

「アメリカン・スケールっていかすよな」

『じゃあアメリカン・スケールで買うよ!』

「まいどあり」

ちょろいな、と心の中で呟く。

1918年5月よりアメリカ軍が前線に入り戦闘を始める。

それに向けて武器を買わせるのだ。

さらにアルレシアは電話をかける。

「もしもし、ポーランド?」

『アルレシアとか珍しー、なに、俺がダンツィヒで転んだ話聞きたい感じー?』

「気にならなくはないが、それよりお前、今大変だろ?それに領土もどれだけ獲得できるか分からない。だからさ、今のうちに武器買っといた方が良くないか?」

『それもそうかもしれーん』

「特別に安くするぞ?」

『アルレシアが売ってくれんだったら買うしー』

「おう、ありがとな」

3月のドイツとロシアの講和で同盟側に渡ったポーランドは、恐らく戦後独立する。

それを見越してだ。



これでしばらく武器、弾薬の特需になるはず。

スパイにドイツやイギリスの最新兵器の情報を盗ませた甲斐があった。



―――もう、戦争は終わる。

今だかつてない混乱に見舞われたヨーロッパは、これから大変なことになる。

植民地を持たないアルレシアが建て直すには、戦後に各地で起こる戦争で武器や物資の注文を受けまくるしかない。

その動きを見越したアメリカの資本がすでにアルレシアに投資され始めているし、何とかなるだろう。

何とかなったら、永世中立化しよう。

もう戦争は懲り懲りだ。



ドイツが座ったソファーに座り、アルレシアはため息をついた。


「…なんでこうなるんだろうなぁ…」


きっと、誰にも分かることはないんだろう。

***

1918年、ドイツ革命の勃発とともに、第一次世界大戦は終わった。

そして1919年、ヴェルサイユ条約調印により、ヴェルサイユ体制が始まる。

ドイツ帝国、オーストリア=ハンガリー帝国、ロシア帝国、オスマン帝国が解体され、民主主義、もしくは社会主義の国家体制に移行した。

ドイツは海外領土を全て放棄し、アルザスとロレーヌをフランスへ返した。

オーストリアはイタリアにトリエステ、チロル、イストリアを返し、各国の独立を認めた。

ブルガリアは領土を割譲し、トルコは割譲、独立承認、軍備制限、治外法権などを負った。

領土を巡りハンガリー=ルーマニア戦争、トルコ=ギリシャ戦争、ロシア=ポーランド戦争が起き戦後の混乱は続いたが、ルーマニア、ギリシャ、ポーランドは領土を獲得した。

ハンガリーとルーマニアの今に残る禍根である。

そして、ユーゴスラビア、チェコスロバキア、ポーランド、リトアニア、ラトビア、エストニア、フィンランドが独立した。


ロシアでは内戦が続き、ヨーロッパに平穏が訪れるまでの間、アルレシアは武器の発注を受け経済を順調に建て直した。



さらに国際連盟が誕生し、各国が平和を目指しこれに参加した。

アルレシアも参加している。

そして、当初の予定通り永世中立を宣言した。




―――これで平和になる。







しかし、すでにこの時から"次"が始まっていた。

ドイツとロシアの間の小国たち。

戦火を免れたドイツ本土。

不満を募らせるイタリアと日本。

台頭するアメリカ。

広がる社会主義。

確実に、カウントダウンは始まっていたのだった。


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