百年戦争と再婚
「あ"ー…」
変な声で唸るオランダと苦笑するアルレシア。まだ真相が掴めないイタリアは首を傾げる。
「聞いた限りだと、アルレシア兄ちゃんのがひどくない?」
「それがさ、俺、オランダが余計な話はしたくないタイプなんだろうって思って、わざとやってたんだよな」
アルレシアからすれば、笑顔も見せず二言目には金銭的利益を追求するオランダは、余計なことは気にかけない守銭奴のようなイメージだったのだ。
「間違ってはいないな」
ドイツはそう言い、「アルレシアも大概だが」と小声で付け足した。
「聞こえてんぞ…まっ、基本的にはオランダはそういうやつなのは確かだったから、俺の読みは間違ってはなかったわけだ」
「でも、兄さんはアルレ兄さんへの憧れがあったから、本来は気にしないはずのことが気になってしまった上に、それをこじらせてしまったわけですね…」
ルクセンブルクの冷静かつ的確な分析は、鋭くオランダを抉った。
「…はあ…」
「やめろルクセンブルク、追い討ちをかけるな」
見かねたイギリスにたしなめられるも、ルクセンブルクは「すみません」と言いつつ悪びれてはいない。
EUで好き勝手やるだけある。
「ヴェ、それで、いつ和解したの?」
「スペイン領になってからだな」
「その前に、2人は結婚してるよね?」
フランスはニヤニヤとした笑みを隠さない。
「どんな新婚生活だったか気になるなあ」
わざとだ。
アルレシアとオランダはフランスを睨む。最初の結婚生活は、まさに最悪だったのだから。
***
混乱の13世紀最後の年、西暦1300年。
3年前にフランスは一方的にフランドル伯領を直轄領に併合する宣言を出していたが、この年、ついに動き出し、フランドル伯を廃位して別の総督を置いた。その総督の圧政に苦しんだフランドルの人々は蜂起し、1302年、コルトレイクの戦いでフランスを破り独立を維持した。
しかし1323年、親フランス政策をとった次代フランドル伯に対して反乱が起こり、1度は追放に成功するもフランスの干渉により1328年に失敗に終わった。
フランスに対抗する際、フランドルの人々はイギリスを頼ったため、市民は親イギリスの立場であった。
翌1329年、イギリス王はフランス王に対して、唯一残ったフランスの領土であるギュイエンヌ伯を維持するため、臣下の礼を拝した。
一方スコットランドに対しては、スコットランド王の死に乗じて一方的に新たな王を立て傀儡政権を起こした。スコットランド王位継承権を持っていた王子はフランスに亡命し、イギリスはそれを引き渡すよう求めた。
だがフランスが応じなかったため、イギリスは逆にフランスの謀反人を嫌味のように歓迎。
両国の緊張はピークに達した。
1336年、イギリスはフランドル地方への羊毛の輸出を禁止。打撃を受けたフランドル地方の都市連合がフランスに対して反乱を起こすと同時に、1337年、イギリスはフランス王位を勝手に継承して挑戦状を叩きつけた。
いわゆる百年戦争の開戦である。
膠着状態が続くなかで、1340年、フランドル伯が追放されフランドルはイギリスに完全に与し、1度休戦が決められた。
その後、1341年から1343年、1346年から1347年にかけて戦いが起きるが、1347年から1355年まではしばらく休戦となった。
1356年から再び戦いが始まるが、まとまった休戦がないまま戦いが続いた。それまでの戦いで再びフランドル伯は親フランスになっていたが、その伯が親イギリス寄りの姿勢を見せると、フランス王は弟のブルゴーニュ公をその伯の娘と結婚させた。そうしてフランドル伯領は、ブルゴーニュ公国と同君連合状態になる。