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「大丈夫か?えーと…オランダ?」
「あっ、あぁ…知っとるんか、俺のこと」
「まあな、ベルギーの兄貴だし」
身長は同じくらい、だが、アルレシアは大国として溢れるオーラを放っていた。それに圧されつつ、オランダはなんとかアルレシアの顔を見て話す。
「…、アルレシア、折り入って頼みがある」
「ん?」
「俺との貿易を始めておくんねの」
「貿易ね…そろそろ俺もオランダ経由でのルート作ろうと思ってたから、ちょうどいい。でも、お前なに輸出できんの?」
そこでオランダは言葉に詰まる。確かに、そこを考えていなかった。
このときオランダの主要産業は農業、しかも量は少なく質も良くない。ベルギーのように毛織物が盛んでもなければ、北欧のように日用品生産が得意なわけでもない。
貿易とはすなわち交換、こちらからの輸出などあまり目ぼしいものはなかった。
困ってしまった様子のオランダに、アルレシアは苦笑する。
「いいよ、とりあえずは東欧との陸上経由地になってくれ」
助け船を出されたが、それは確かに現実的だった。オランダも頭はいい、それが意味するところはすぐ理解した。
現在、ポーランドやボヘミア、バルト沿岸など東欧諸国とアルレシアの貿易は、バルト海からスカゲラク海峡を通るか、ブレーメンやオルデンブルクから北海に出るかという方法が主流だ。
しかし、スカゲラク海峡はデンマークとノルウェーの影響下にあり、ブレーメンから海上に出るのは船舶の性能的に効率が良くなかった。
なるべく船を使わず、かつ北欧より西、となれば、アルレシアに最も近い大陸側地域であるオランダはまさに絶好のポイントだ。
これまでは灌漑がなかなか進まなかったために、オランダの沿岸まで物資を大量に運べなかったが、ようやくそれも解決されようとしている。
東欧交易の経由地としてオランダの価値をアルレシアに認められたのだ。
「分かった、ほれでええ」
「よし、じゃあとりあえずはアムステルダムかロッテルダムと、こっちの外港・ポルタスヴィアとの間で試験的に貿易船を動かそうか」
さすが貿易国家というべきか、アルレシアはすぐに段取りを組み立てる。
オランダは頷いて、まずは一歩踏み出したことを噛み締めた。
***
アルレシアとの貿易が始まってしばらく、オランダはベルギーに会いに来ていた。ホラント伯やゼーラント伯、エノー伯などが、フランドル伯、ブラバント伯などと血縁的に統合されつつあるからだ。
このままいくと、ルクセンブルクを含めてネーデルラント一帯が1つになる。
そのことについて話しに来たのだが、同じタイミングでフランスも来ていた。ベルギーはロタリンギア時代に西フランク王国に継がれ、そのままフランスの一部となっているからだ。
対してオランダはロタリンギアから外れフリースラントとなってから、東フランク王国に継承され、神聖ローマ帝国の領邦となっている。
「あっ、お兄ちゃんやん、久しぶりやんなー」
「おう…フランスもおるんか」
「そうよー!いやあ、オランダもずいぶんかっこよくなったね!」
「アルレ兄ちゃんにも負けへんくらいになっとるよ!」
「アルレ兄ちゃん?…アルレシアか」
妹が呼ぶ名前から推測すれば、合っていたらしい。
「ベルギーはかなり昔からアルレシアと交流あったからね、歳の差もあって、兄貴分だと思ってるみたい」
フランスはベルギーの頭を撫でながら説明する。
オランダとベルギーも、血は繋がらないものの 兄妹だ。しかし、国力のないオランダはベルギーに兄らしいことはしていない。
アルレシアはベルギーを可愛がってやっているようで、ベルギーは兄のように感じるようだ。
「アルレちゃんは、ウチにぎょうさんお土産とか、面白い話とかしてくれるんよ!」
「……」
「あれ、もしかしてアルレシアに嫉妬しちゃった?兄貴は自分なのに!みたいな」
黙ってしまったオランダに、フランスが小声で問い掛ける。
だが反応はない。
「もしかして、ベルギーに嫉妬した?…なんで自分はアルレシアにそんな構ってもらえないのか、って」
その2回目の問い掛けは、オランダの中でストンと収まった。
そうか、とオランダはわがことながら気付く。
「…あいつ、俺にはほないなことせん」
「そうなの?アルレシア面倒見いいのになあ…俺やイギリスにも他愛ない話するのに」
オランダには そのようなことはいっさいしない。淡々と、貿易のことだけ話す。
オランダも金のことしか話題にしないため、そういう話に 終始してしまう。
―――嫌われているのか。
そう考えると、ひどく悲しい気持ちになった。
すぐ海の向こうの、憧れの国。
彼からの扱いが他のやつより低いことが、オランダを失望させたのだった。