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スペインの家に着くと、すぐにスペインとロマーノが迎えてくれた。
ひとしきり歓迎されてから、ベルギーとルクセンブルクは疲れからか、あてがわれた部屋に入って休んでしまった。オランダも自分の部屋に引っ込んでいる。ロマーノはシエスタ中だ。
そうして今、アルレシアはスペインとリビングのソファーに並んで座ってワインに舌鼓を打っている。
「また味が良くなったな。どこのだ?」
「バルセロナ郊外で作られたやつや。寝かせたらまた味変わるで」
遠くインディアへと船へ出るようになったスペイン。もうすでに、コロンブスが発見した土地は新たな大陸であると分かっている。
そこからの儲けで、スペインは今勢いに乗っていた。
「…アルレ、大丈夫やった?」
「…なにが」
突然、スペインは静かに切り出した。
アルレシアはすぐになんのことか分かってしまった。しかし、1度はぐらかす。
「オランダの家行ってから、アルレはめっちゃ元気なくなったやん」
「……さぁな」
「…アルレ、おいで」
なおもぼかせば、スペインはこちらに腕を広げた。隣にいるアルレシアに向けてだ。
「詳しい話は聞かん。せやけど、頼ってや。…もう、大丈夫やから」
優しく、だが切なそうに、スペインは微笑む。その包み込むような感じに、アルレシアは込み上げてくるものを押さえられなくなった。
ぽすっ、と、アルレシアはスペインの胸に額をつけて寄り掛かった。シャツを掴んで体重を任せれば、スペインはぎゅっと抱き締める。
海に出るようになってから逞しくなったようだ。胸元に顔を寄せて思った。
「…すげえ、寂しかった」
「うん」
「…帰りたかった」
「うん」
「…もう、一人は嫌なんだ…」
「…うん、せやね」
泣きそうで、泣いていない。
そんなところもアルレシアらしくて、そして泣かせられないのが悔しくて。
スペインも泣きそうになるのを感じた。
―――そんな二人を見る影がひとつあった。
***
スペインの家に来てから、ようやくアルレシアは元気になっていった。
屋敷の人々も優しいし、ベルギーやロマーノ、ルクセンブルクとも仲良くしている。オランダとはまったく会話がないままだが、充実した日々を過ごしていた。
王女マリアとカルロスの間にも子供が3人生まれたが、男児は末っ子だけで、その子供は生まれてすぐ亡くなってしまった。
長女アンはバイエルン公国へと嫁ぎ、次女カトリーンはブランデンブルグ選帝侯へと嫁いだ。
そうして、1524年、マリアは他の子供を生めないまま崩御した。
アンの夫も病死したためにアンは未亡人となり、スペインへと戻ってきたが、1548年に再び結婚することとなる。その相手こそ、ネーデルラントで所領を持っていたオラニエ公ウィレムであった。
一方のカトリーンは、ブランデンブルグ公ヨアヒム1世と結婚し、娘エリザを出産すると同時に亡くなった。エリザは1538年にザクセン公モーリッツと結婚、やはり娘アイリスを産んだ。
アイリスの結婚相手は、アイリスの祖父であるヨアヒム1世の妹・アンナの直系の曾孫であるデンマーク王フレゼリク2世であった。アイリスとデンマーク王フレゼリクとの間に生まれたエリザベスは、1565年にヴァンドーム公ルイと結婚する。
ヴァンドーム公はブルボン家本家の血筋である。ルイとエリザベスとの間にはようやく男児シャルルが生まれ、これよりブルボン家の傍流としてハンザ=ブルボン家が始まる。
このシャルルに流れる血筋は、カルロス1世からのブルゴーニュ家とハプスブルク家、ブランデンブルグ公のホーエンツォレルン家、ザクセン公のアルベルティン家、デンマーク王のオルデンブルク家、ヴァンドーム公のブルボン家、そしてアルレシア王家である。
これでもかと名門の血筋を引いていた。
そのシャルルの末裔であるカトリーヌは、1745年にブランデンブルグ選帝侯フリードリヒと結婚、間にカールを設ける。このカールこそが、イギリスから独立する際に王として擁立された存在であり、現在のアルレシア王家の直接の祖である。