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マリア崩御の2年後、カルロス1世はポルトガル王女イサベルと 結婚し、フェリペ2世を生む。フェリペを育てつつ、カルロスはフランスとイタリアを巡り戦争し、アメリカを 植民地化し、カール5世として神聖ローマ帝国内での宗教改革への対処に追われていた。
***
スペインのドタバタを他所に、屋敷では子分たちが暢気に暮らしていた。オランダは仕事ばかりしているが、アルレシアは仕事はほどほどに、ロマーノたちとだらだら過ごしていた。
「アルレ兄ちゃん、これどないしたらええ?」
「あー、芋な、毒あるからこの部分は取るんだ」
「へえ〜」
料理をするベルギーを手伝いつつ、さっとキッチンの隅を見れば、ロマーノがこっそりつまみ食いしようとしていた。
「おいこら。何してる」
「うげっ、バレたっ!」
ロマーノは逃げ出そうとしたが、キッチンの入り口で入ってこようとしたルクセンブルクにぶつかった。
「うわっ」
「おっと、大丈夫ですか?」
「悪いルクセン、そいつ掴まえといてくれ」
「了解です」
ルクセンブルクは抱き止めたロマーノをそのままホールドする。
「やめろ、離せ!」
「さてロマーノ、今何してた?」
威圧感を出しながら問えば、面白いくらい肩が跳ねる。
「…はぁ、いいか、ロマーノ。腹へったのは分かるけど、迂闊に食べたら危ないのもあんの。毒あるやつもあるんだぞ」
「えっ…」
「もうパスタ食えなくなるぞ、いいのか?」
「やだ!」
「じゃあつまみ食い禁止な。ほら、これやるから我慢しろ」
ロマーノの口に、ベルギーに料理を教えながら一緒に作っていたクッキーを入れてやる。
「ふまいぞこのやろー、」
「当たり前」
「アルレさん、自分も食べたいです」
すると、ルクセンブルクも要求してきた。ロマーノを抱き抱えているため、手が塞がっている。
「ほら、」
なので、アルレシアはルクセンブルクの口元まで クッキーを運んでやった。
「っ、どうも…」
ぱくり、と口にしたルクセンブルクは、心なしか顔が赤い。
「大丈夫か?」
「…はい」
「小悪魔っぷりえげつないでー…」
そんなベルギーの呟きは、パエリアに含まれ消えていった。
そんな平穏なある日、アルレシアがリビングに一人でいると、玄関の呼び鈴が鳴らされた。誰もいないため、アルレシアが迎えに行く。
「誰だ…ってお前か」
「随分な挨拶やんなぁ」
やって来たのはポルトガルだ。
航海から帰ってきたばかりなのか、潮の香りがする。
「久し振りに会うたいうんに」
「あーはいはい、久し振り」
ぞんざいな対応をすれば、なにが面白かったのかくつくつと笑う。その揺れに合わせ、後ろでくくられた短い髪が揺れた。
「スペインおらんの?」
「あいつは出掛けてる。もうじき帰ってくるから、上がってるか?」
「んー、まああいつに用があるわけやないけど…そうさせてもらうわ」
「…?なんだそれ」
変な奴、と思いながら、アルレシアは背を向けて案内するようにリビングへ向かおうとする。
その背中にポルトガルの声。
「君に用があったんやけどな」
「は……っ!!」
振り返った瞬間、ポルトガルに壁に押し付けられた。ぐっと息が詰まり、目の前にポルトガルの胸板が迫る。大きく開かれたシャツから覗く十字架と、首もとにかかるごついゴーグル。
何のつもりかと顔を睨み上げた。
「おー、怖い怖い。せやけど、その目付きがええなぁ…従わせとうなる」
「くそ、変態か…!」
離れようとしたが、ポルトガルは手をアルレシアの両側につき、逃げられない。
「この前、アイルランドの沖合で海賊と戦っとったやろ?」
「いつの話だ…」
「1490年代くらいやった気がする」
「結構前だな…で?」
「そんときに、海賊相手に船の上で立ち回るお前さんが綺麗やってん、気になっとったんや」
ポルトガルは顔を近付け、耳元で囁く。
「俺のもんにしたい、ってな…?」
殴ってやろうか、そう思った途端、玄関の扉が開いた。
「ただいまー…って、何、しとるん…」
帰ってきたのはスペインだ。
疲れた様子だったが、ポルトガルとアルレシアの距離を見て固まる。
「…何、しとるん?」
そして、次に出てきた言葉は、ひどく冷たい声だった。同時に感じる殺気。
「アルレに何しとるんって聞いてんねやけど?」
「けったいな声出すなや、スペイン。誰のもんでもない子にちょっかいかけて何が悪いんや」
ポルトガルも負けじと殺気を纏う。世界を股にかける二大王国のにらみ合いである。挟まれる身としては迷惑だ。
「…はぁ、おい、二人ともやめろ。ポルトガル、まずはどけ。沈めるぞ」
「え〜?どないしよっかな」
ふざけた態度を崩さないポルトガルに、アルレシアの業も煮えた。年上として、"本物の"殺気を出してやる。
「そんなにリスボンを灰にしてえか」
温度のない声。
ポルトガルは「すんまへん…」と言って下がった。
「スペインもすぐキレんな」
「…分かった」
どうにも、この二人が揃うと面倒臭い。まさか40年後にはポルトガルもこの屋敷に加わろうとは、思ってもみなかった。