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兵士たちが駆ける音を聞きながら、アルレシアとスペインは剣をぶつけ合った。
甲高い金属音が響き、ベルギーは一瞬目をつぶってしまう。

「随分強くなったな?」

「アルレはいつになったらその腕っぷし弱まるん?」

お互いそんな軽口を叩くが、押し合う力はとても強い。ギリギリと軋むのは刀か、食いしばる歯か。


「正直、お前から離れるのはつらいけどな」

「まだ間に合う、でっ!!」


再び鋭い音を響かせて、2人は後ずさって距離を取る。辺りには兵士たちがぶつかり合う激しい音や銃の発砲音、大砲の轟き、悲鳴が満ちる。


「お前の側は居心地がいいからな。何度もお前に助けてもらった…一人にしないでくれた」


オランダからの冷たい態度に苦しんだ生活から、スペインの家に移り住み、そこからスペインたちと過ごした時間は、かけがえのない大切なものだった。
どんなつらいことがあっても、笑って何でもないことのように受け入れてくれる包容力を持つスペインは、アルレシアにとって特別な存在だったのだ。


「俺もやで、アルレ。年の功、言うたら怒るけど…アルレは俺の気持ちや考えに先回りして、諭してくれる。…きっと、人間の子供らは、親や大人が、その役目負うとるんやろうなぁ」

「こんなちゃらんぽらん育てた覚えはねえぞ、スペイン!」


お喋りはそろそろ終わりだ。でないと、本当に戦いたくなくなってしまう。そう思い、アルレシアは再び剣の切っ先をスペインに向けて走り出した。


「ははっ、俺かてこんなおっかないお母さんおった覚えないわ!」

「誰がお母さんだ!」


そんな言葉の応酬に軽く笑いながら、1回目よりも大きく音をさせて剣がぶつかり合う。
今度はしのぎを削るのではなく、何度も相手を斬るために剣を動かし続ける。

その素早くトリッキーな動きに、ベルギーとルクセンブルクは思わず感嘆した。互角にやり合うスペインとアルレシアは、どこか違う世界の人間のようにも思えたのだ。


すると、どこからか水の音が聞こえ始めた。同じタイミングで、兵士たちの動揺する声。それは主にスペイン語やフランス語だ。

川の堤防を決壊させたのだろう。アルレシアはあっという間に膝したまで泥水に浸かったことに特に驚きを見せなかった。他のアルレシア兵も同様で、混乱するスペイン軍の隙をついて攻撃を仕掛ける。


「余所見すんな、スペイン!」


アルレシアはそう言うと、スペインが持っていた剣を弾き飛ばした。


「なっ!アルレ…っ!」

「これくらいで慌てんな」

「いや、こんな平原が一気に海みたいになっとるんやで!?そら混乱するわ!!」


わたわたとあわてふためく様は、本当にいつも通りだ。思わず笑いそうになる。
だが、そんな余裕はなかった。


「おい、まずいぞ!」

「くそっ…こうなったら、国だけでも討つか…!?」

「何言うとるん!?そんなん…」


周囲のスペイン軍の集団30人ほどが、混迷を極める中で焦ってそんなことを話していた。


「国が弱まればあいつらも弱まる、つまり逆もあり得るやろ」


それは早計だ。
マドリード出身ならスペイン人と言えるが、スペイン人ならマドリード出身とは言えないように、それは確かなことではない。
とは言っても、そんなことを言って聞いてもらえそうな空気ではなかった。

こちらに火縄銃を構えるのを見るや否や、アルレシアはスペインが装備していた火縄銃を奪い取り、素早く近くの捨てられた大砲の火薬箱を撃ち抜いた。
僅な時間で確実に、しかも片手でのことだった。

火薬に引火した瞬間、大爆発が起こり、耳が一瞬水の中にいるように聞こえなくなる。
そして、地面を覆う泥水が爆発で舞い上がり、辺りに滝のように降り注ぐ。

これで、周囲の兵たちの火縄銃は使い物にならなくなった。


「おい!!スペイン軍は剣も使えねえのか!!」


ついでアルレシアはそう煽るように叫び、兵士たちに切っ先を向ける。
元から焦っていた兵たちは、簡単に煽りに乗り、剣を構え始めた。

「スペイン、ベルギーたちを頼む」

「な、何言うてるん、俺が指示出せば…」

「そんな指示出して兵たちに示しがつくかよ。何の武器も持ってないんだから潔く離れてろ」


アルレシアは早口に捲し立てると、剣を構えて走り出す。
水の中とは思えない軽快な走りで兵たちの集団に突っ込むと、踊るように次々と遅い来る兵士を剣でなぎ倒す。
斬る、というよりも、剣で突き飛ばすのだ。

どれだけの力なんだ、とスペインは呆然とする。


「あのときみたいや…」


ベルギーの脳裏に浮かぶのは、モンゴルに 同じように 立ち回るアルレシアの姿だった。


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