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その日の夜、一旦戦いが中断し、アルレシアは市庁舎に割り当てられた寝室のベッドに横になっていた。
久しぶりに動いたからか、全身が重い。
その看病でもするかのように、オランダが側の椅子に座る。
「…戦況は」
「…両軍とも、ほう大きな被害は出とらん」
「そうか…」
聞きたかったことを聞けたアルレシアは満足だったが、アルレシアが喋れると分かったからか、今度はオランダの方から質問が来る。
「なんで、庇ったんげ?」
「さぁ。体が勝手に」
それは事実だ。咄嗟に体が動いてしまったのだ、意思ではない。
「敵なんにか」
「あぁ。やっぱ、お前らベネルクスには甘いのかなぁ」
昔から交流がある3人だ、どうにも弟や妹のように甘やかしている自覚はあった。欧州はだいたいみんなそうだが。
「…俺も、ほの対象なんか」
オランダは、椅子からアルレシアのベッドに腰かけた。布団が沈むのを感じ、アルレシアは起き上がった。
上体だけ起こし、オランダの反対側を向いている頭の後頭部を見つめる。
いつぞやの夜のようだった。
「そうっちゃそう、だけど、ちょっと違う」
分かりづらく、少し拗ねたようであり悲しそうでもあるオランダ。
その後ろから、背中に軽く抱き着くようにして凭れ、肩口に顔を埋めた。
「なっ、アルレ!?」
慌ててオランダは振り返るが、アルレシアは変わらずオランダに後ろからくっついている。
アルレシアは、初めて自分から触れたオランダの体温が低いことを知った。それが酷く心地好い。恐らく、傷を負ったせいでアルレシアの体も発熱しているようだ。
不景気のときとはまたちょっと違う、熱だけを感じる。
「アルレ…熱、上がっとるんか…」
「んー、まあな…それより、」
本題はそこではない。オランダが他のベネルクスと違う理由だ。
「俺にとってはな、オランダは、まあ甘やかしてやりたいのももちろんあるけど…同時に、甘えられる、頼れる存在でもあるんだ」
体重をオランダにかけても、オランダはびくともしない。どんな体幹してんだ、とはさすがに今言うことではないので黙っておく。
静かな部屋、寝台横の机に乗った蝋燭が揺らめく。
「…この前、人さらいから助けてくれたとき。お前が来てくれたとき、ほんと、すげえ嬉しかったし、安心した。そんときから、俺の中ではオランダは寄り掛かっていいやつになった」
「スペインやイギリス、フランスはどうなんや」
「イギリスたちは対等でいたいな、昔からの仲だから。スペインも頼りになるけど、あいつは優しすぎる…みんなに優しいし、みんなを受け止めようとするから、俺まであいつに甘えたらあいつ潰れるだろ。俺にはオランダみたいにとことんがめついやつじゃねえとな」
くすりと笑えば、オランダからはため息が零れる。
「アルレには気ぃ遣うで、ほないにがめつくせん」
「俺だけには、だろ?スペインとの違いはそこ。俺だけしか寄り掛からせないなら、俺も心配せずに甘えられる」
誰のことでも受け止めようとしてしまうスペインは、自分も頼っていいのか心配になってしまうし、潰れそうになっていないか気にしなければならない。
だが、オランダは基本スタンスがアルレシアと似ており、本人が言うようにアルレシア以外の他人は気に掛けない。だから、安心して何も考えず寄り掛かれるわけだ。
「…まぁ、アルレにほう思ってもらえんなら光栄やざ」
オランダは少し考えた末、言葉通りポジティブに受け取ってくれたらしい。アルレシアとて、ネガティブなニュアンスは含めていない。
身を捻り、オランダはアルレシアの頭に手を置く。
そして、髪の毛を梳くように撫でた。ゆっくりと労るようなそれは、手が動く度に、心の中の凝り固まった部分が溶けていくようだった。
「…あー…おれこれすきだ…」
急速に眠くなり、アルレシアは怪しい呂律で呟いて、もっともっとねだるようにオランダの肩に頭を押し付ける。
「可愛すぎか」
そんな欧州の誰も見たことがない様に、オランダは内心悶絶しながら平然を装う他なかった。