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それから1ヶ月、いまだ断続的に続く戦闘は、まさに気力との戦いだった。
大して大きくもない街の中に一万人単位で押し込められるのだ、気が滅入る。
それでも、この時代はそれが当たり前だったし、望めば戦線から下がることもできた。騎士道精神からそれを選択する者はいなかったが。
夏が終わり秋となり、過ごしやすさもあって戦闘は激化。
アルレシアは依然、市外でのスペインたちとの直接対決を選び、暴れまわっていた。
「あいつ、そろそろ1700歳くらいだろ」
それを見て呆れたような、呆然とするようなことを言うのはイギリスだ。
それに、オランダは無言で返す。
2人はブレダの外壁の上におり、アルレシアが大立ち回りする戦場を見ていた。
「あいつの見た目年齢も、なんか13世紀くらいから変わってねえし…どうなってんだ…」
「…かわええ」
「…、そうだな…」
話が噛み合わない。
確かにアルレシアは可愛いとイギリスも思っているが、今は勇ましさの塊、というか綺麗な分化け物感が強い。
オランダは最近までアルレシアと不仲だったようだが、その目にかかったフィルターはかなり拗れている。
それにしても、とイギリスは辺りを見渡す。
水没した南部、大きな湾になっている北部はほぼ攻めてこれない今、西と東からスペイン軍は攻めてきていた。
これまで足止めになっていた森林地帯も少しずつ斬り倒され、騎兵も動けるようになっていた。
何より、包囲しているスペイン側の方が圧倒的に物資が豊富だ。隣接する南ネーデルラントから兵士も物資も補給しやすい。
相手が折れるまでこちらが粘り続けるしかない、というのは、かなりじり貧だ。先日のアルレシアのケガがベルギーたちを庇ってのことだったとはいえ、普通に戦闘で大怪我をすることも増えるだろう。
無傷で済むとも思っていなかったが、先が思いやられるイギリスだった。
そんなイギリスの不安は、1週間後に的中する。
勢いづいたスペイン軍が、包囲戦開始後最も街に近いところまで来たときにそれは起こった。
アルレシアとオランダは街を出て、スペイン軍が突入しようとしてくる城門周辺で一進一退の攻防を繰り広げていた。
やって来るスペイン軍を様々な方向から攻撃し、何とか後退させている。
「オランダ!東側大丈夫か!!」
「問題あらへん!アルレん方どうや!」
「火力が薄い、もう少し俺の軍まわすぞ!」
銃声や怒声にかき消されないように、2人は大声で叫び合う。
アルレシア側からは火縄銃の部隊が接近して来ており、それを迎え撃つための味方の火縄銃部隊が必要だった。アルレシアは自軍の一部を市内から呼び、自らも銃を構えた。
「砲弾だ!!」
すると、誰かが空を指差して叫んだ。言葉を理解するより先に、本能で飛び退く。
その次の瞬間、五メートルほど離れた地面に砲弾が着弾し、爆発。
辺りは爆音とともに砂埃に包まれ、崩れた陣形にスペイン軍が雪崩れ込んでくる。
「まずい、歩兵応戦しろ!!」
アルレシアは近くの剣を構えた兵士に指示し、押し寄せるスペイン軍に応戦させる。アルレシアも火縄銃から剣に変えて近付いて来た兵士たちに斬りかかる。
「アルレ、大丈夫か!?」
「オランダは俺のこと心配し過ぎだろ!!」
相も変わらずアルレシアを心配するオランダ。その手に握られた剣は赤く染まっている。
2人で背中合わせに立ち、周囲を取り囲む兵士たちを斬っては捨てる。
そこへ、火縄銃の新たな部隊がやって来て、アルレシアたちに銃口を向けた。アルレシアが駆け出すとすぐ、外壁からその部隊に向けて銃弾が打ち込まれる。イギリスだ。
「助かった!」
「べ、別にお前のためじゃ…アルレシア後ろだ!!」
いつものツンデレを発揮しようとしたイギリスの声は、言い終わる前に警告に変わる。それに咄嗟に反応はしたが、アルレシアに降り下ろされようとする剣は避けようがない。
まずい、とアルレシアは思わず目を閉じる。ここまで追い詰められたのは初めてで、体が防御反応を示してしまったのだ。
直後、目を開けると、視界は暗く、感覚は暖かい。
「な…んで……」
アルレシアは抱き締められていた。
背中をざっくりと斬られた、オランダに。