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アルレシアの思った通り、クロムウェルはアルレシアへの影響力を高めようとしたものの枢密院の反対にあい諦めた。枢密院は軍事も担当するため、幕僚たちにイギリス侵攻を示唆されたからだ。
アイルランドやスコットランドで手一杯なイギリスは渋々引き下がり、これまで通りの自治権を認めた。
自由が保障されたアルレシアは、さっそくオランダと金儲けに出る。
今回は北方戦争参戦を決めたデンマークのところだ。
1657年、スウェーデンはポーランドとリトアニアに敗退を重ね、ロシアにフィンランドを奪われた。
嫁を誘拐された夫の不機嫌さたるや凄まじく、その年の年末、弱まった(ように見えた)スウェーデンに戦争をけしかけたデンマークはユトランド半島を制圧された。
三十年戦争のときもそうだったが、デンマークが参戦すると静観に回るのがプロイセンである。
実質的な助けはないまま、デンマークは首都をユトランド半島からシェラン島のコペンハーゲンに移した。
そこであればスウェーデンは来れない、そう思ったが、その冬は数百年に一度の大寒波。半島とシェラン島周辺は完全に凍結し、海は閉ざされた。
「オランダ、帰ろう、寒すぎる」
「アルレ、こっち来」
吹雪が視界を不明瞭にする海岸、商談をしようとしたら外に出たデンマークとノルウェーに従って外にいるが、アルレシアは寒すぎて金より暖をとりたくなった。
ノルウェーがアルレシアの肩を抱こうとすると、オランダがその腕をはたき落とす。
「触るんやない、俺のやざ」
「イギリスに負げで奪われたくせになーに言ってんだこの」
「いんやー!すんげえ氷だっぺぇアルレシア!!」
「うるせえ…うん?」
そこでアルレシアは氷に閉ざされた海を動く影を見付ける。その殺気に、すぐに誰だか気付いてしまった。
「いっけね、オランダ、このあとフランスのとこ行かなきゃだからさっさと行こう」
「…?まぁ、ええけど」
「じゃあな、デンマーク、ノルウェー」
「おー!」
「気ぃつけてけえれ」
2人に手を振って、アルレシアはオランダを連れてそそくさとコペンハーゲンを離れる。この寒さで巻き込まれるのだけは勘弁だった。
氷上侵攻と呼ばれるスウェーデンの戦術によって、デンマークが降伏するまであと少し。
ロスキレ条約によって、デンマークは スコーネ地方などをスウェーデンに割譲した。肥沃なスコーネを奪われたことはデンマークにとっては大きな痛手であり、なんとかスウェーデンを打ち負かして奪い返したかった。
「ってことで、力貸してくんろ!」
「…お前、オランダのこと頼りすぎじゃね?」
デンマークはロスキレ条約直後、オランダとアルレシアのところにやって来た。ソファに並んで腰かける2人に、デンマークが両手を合わせて頼み込む。三十年戦争からそうだが、何かにつけてデンマークが支援を求めるのはオランダだ。
もやもやとしてつい、そう言ってしまったが、デンマークはあっけらかんとする。
「だって、オランダに頼めばアルレシアもついて来るべ?他のやつより額がちげぇもんな!」
持つべきものは友達だっぺなぁ!と快活に笑うデンマークに、急にアルレシアは恥ずかしくなった。
これではまるで、
「嫉妬したんか?アルレ」
ニヤリ、とオランダに笑われ、アルレシアは顔に熱が集まるのを感じた。
「うるせー…」
「そこで嘘つかんのがアルレやな。可愛すぎてチューリップも恥じらって花閉じてまうわ」
オランダからの猛攻に、人とこれほどまでに近い関係になったことのないアルレシアは感情をもて余す。
顔を見られたくなくて、アルレシアは隣に座るオランダの肩に頭を預けて俯いた。
その髪の毛を撫でながら、オランダはデンマークに書類をつきつける。
「アルレの可愛さに免じてこれで貸しちゃる」
「おぉ!恩に着るだ!にしても、アルレシアの可愛さに免じてたら毎回そうしねぇどいげねんじゃねぇのけ?」
「……ほやな、珍しくまともなこと言いよる」
「まともじゃねえよ!!憤死させる気か!17世紀のボニファティウスか!!」