騒乱
1665年、イギリスはアメリカのオランダ植民地を攻撃し、第二次英蘭戦争が勃発した。
戦費調達のため、 ついにイギリスはアルレシアの枢密院に対し解散命令を出した。チャールズ2世の親政と、イギリス議会の干渉が始まることを意味するそれを当然貴族たちは受け入れられなかった。
人々もまた同様であり、貴族たちが私設軍を率いて反旗を翻し、国王の直属軍である禁軍と常備軍の幕僚もそれに追随し、さらに民衆もイギリス商館や商船を襲い始めた。ここにアルレシア騒乱が勃発する。
元枢密院のメンバーたちはオランダと連絡を取り、協力してイギリスに立ち向かうことを決めた。
第二次英蘭戦争は、オランダがアルレシア反乱軍と共闘する形になった。
***
アルレシア南西部の海岸。
侵攻してくるイギリス軍を、上陸したところで袋叩きにする作戦の中、アルレシアとオランダは海岸へ向かう道を馬車で移動していた。
2人きりの車内、アルレシアはオランダの隣に座って考え込んでいた。
「どうかしたんか」
「…あぁ、ちょっと、な」
考えるのは、イギリスのことだ。
正直、アルレシアはあまり気にしていない。イギリスから高圧的な態度を取られたことや、あんなことをされたのは確かに悲しい。しかし、アルレシアは自力で突破できるし、実際にそうした。
ただ、なんでそうしたのかだけ誠意を持って言ってくれればいいのだ。
「なぁ、オランダ」
「ん、」
「戦いが一段落したらさ、ヤらねえ?」
「な…っ!?」
オランダは相当驚いたらしい。
壁に頭をぶつけていたが、痛みを感じていないようだ。
「いきなり何言うとんじゃ!」
「いやぁ、だって付き合って40年経つぞ?人間なら結婚して子供生んで家庭持ってそろそろ寿命だからな?」
「ほやけど…お前が大丈夫なんか」
「さあ、やってみなきゃわかんねえだろ。とりあえず、古代ローマやルネサンスの文献見て調べるか」
暗黙の了解でアルレシアが下だ。負担が大きい側なのに、アルレシアの方が前向きである。
オランダは男が廃る、とアルレシアの肩を掴んだ。
「や、優しくしたるさけ、」
「ははっ、当たり前だろー」
どこか必死な様子が可愛くて、アルレシアは笑ってオランダの肩を叩いた。
ところかわって戦場、先程までの甘い空気は霧散し、2人は鋭利な刃物のような殺気を纏う。
対峙するのはイギリス。海でも連敗し、焦りが見えた。
本当はこのまま合間見えたいところだが、周りの敵を駆逐するのが先だ。
アルレシアとオランダは背中合わせに立ち、囲む敵を次々と斬っていく。
お互い動きが大きく、油断すれば背後のお互いを斬ってしまいそうになる。だが、2人は示し合わせずとも息を合わせて合理的な動きをしていた。
たまに片方の近くから敵がいなくなれば、火縄銃に持ち替え遠くの敵に発砲する。手が空けば援護する。
イギリスはそんな2人を見て、ため息をついた。
「あれに勝とうって方が、無茶だな」
それは戦いに、というわけではない。
2人の絆にだ。
オランダとアルレシアが結ばれて焦っていた自覚はあった。なんとか引き離して、自分に傾かせたかった。
フランスが早々に諦めて「みんな愛するのさ」と言っていたのも、ノルウェーが「あいつの選んだごどだ」と割り切ったのも、理解ができなかった。
今、イギリスはようやく気づく。
自分が愛したアルレシアというやつは、ずっと昔から誰よりもがめつくて、誰よりも誠実だった。
そして誰よりも強くて、思い通りにいかないやつなのだ。
イギリスが画策してどうこうできるような簡単なやつではないし、何より、そんなことで気持ちを簡単に変えるようなやつでもない。
「そういうやつだったんだよな、お前は」
「やっと気付いたのかよ」
イギリスの前に立ちはだかるのはアルレシア。離れたところにオランダが立っているのは、果たして誰への配慮か。考えるのも愚問だが、ありがたくはある。
「―――好きだ、好きだったんだ、アルレシア」
「……そっか」
頬を伝う温もりは、すぐに冷めて冷たくなる。
アルレシアはそれ以上は何も言わず、ただ、聞いている。
「そのうち、フランスやノルウェーみてえに、綺麗なもんに昇華する。だから、もう少しだけ…好きでいてもいいか」
「…うん、ありがとう」
ひとつだけ礼を言ったアルレシアは、小さく笑ってくれた。それが、何もかもを受け入れてくれているようで、イギリスはフラれたのに暖かい気持ちになった。
「この前は悪かった。…やっぱ、お前には勝てねえな」
「当たり前」
「…枢密院解散はなしだ」
イギリスはそれだけ言って、アルレシアに背を向ける。アルレシアも、もうそれ以上は何も言わなかった。