17世紀の危機: 南ネーデルラント継承戦争
「そんなごどもあったっぺなぁ〜」
通じ合えたもののすぐ引き離されてしまったところまで話せば、ほとんどの欧州諸国が懐かしそうにした。バルカン組以外は漏れなく関わっている出来事だ。
デンマークは氷上侵攻の話でケラケラと笑っていた。完全に笑い話にしてしまっている。
「イギリスはぶっ潰したかったんやけどな」
「へえ?またやるか?オランダ」
アルレシアにちょっかいを出されて苛立っていたオランダは、今もムカつきはするようだ。イギリスはもう落ち着かせているようで、余裕が見える。
「もうここらへんはみんなの思い出話だよねぇ」
しみじみとしたフランスに、方々からジト目が向けられる。
「誰のせいやと思ってんねん!」
「そうですよ、自分も姉さんも大変だったんですから」
「あなたがかき回していきますからね、あの時代は」
「今もあんま変わっとらん」
振り回され続けたベルギーとルクセンブルク、毎回火消しに追われたオーストリア、同じく巻き込まれたオランダとフランスの暴れっぷりのせいで迷惑を被った国は多い。
「あれー、そうだっけ?お兄さん都合悪いことはセーヌ川の橋から投げて流しちゃうからさ」
「俺はなんも言えねえわ」
フランスについたり敵対したりとふらふらしていたイギリスはノーコメントを選んだ。懸命だろう。
年寄りばかりの欧州、たまにはこうやって昔話として振り返るのも悪くない。
***
第二次英蘭戦争とアルレシア騒乱は、フランスの拡張政策によって終わりを迎えた。
1659年に結ばれたフランスとスペインの講話条約、ピレネー条約は、スペイン王フェリペ4世の娘マリーがルイ14世に嫁ぐこと、その際、マリーは持参金を持ってくる代わりにスペイン王位継承権を放棄することを決めた。
フェリペ4世が亡くなると、フランスはマリーが持参金を持ってこないためスペイン王位継承権は自分にあると主張した。
「しゃあないやろ、俺かて金ないねん…」
「それは俺のせいじゃないもん。持ってこないなら王位は俺のでしょ?」
「言うて、俺ん家の法律ではカルロスさんやで?継承権高いの」
「ベルギーの法律では後妻の子より直系の子女の方が優先的、そうでしょ?ベルギー」
「ぅえ!?ウチに聞くん!?」
ベルギーやルクセンブルクといった南ネーデルラントの法律では、確かにカルロス2世よりマリーの方が継承権は高い。
そのため、フランスは持参金がないのならとベルギーに侵攻することにした。
ネーデルラント継承戦争だ。
ベルギーに侵攻してきたフランス軍に、オランダは警戒心を募らせた。陸続きでオランダと繋がるため、いざというとき陸上から侵攻されかねないからだ。
「おいイギリス、いったん戦争やめるで」
「お、おう…」
「スウェーデン、力貸しねま」
「…ん」
オランダは第二次英蘭戦争をさっさと終結させ、イギリス、スウェーデンと同盟を組んだ。
その際、アルレシアは枢密院の招集が行われ、イギリス側からの干渉を行わないことが決められた。
1668年、アーヘンの和約によってフランスはベルギー併合を諦め、おとなしく引き下がった。
しかし、オランダのこのような戦術に不快感をもったフランスは、オランダへの復讐を決める。
フランスはこれより、各国との同盟を急いだ。
1669年からの3年間は、17世紀が始まって初めて欧州のどこでも戦争が起きていない期間となった。
しかしそれは、次の戦いの嵐の前の静けさに過ぎなかったのだ。
イギリスとはドーヴァーの密約、スウェーデンとも同盟を結び、神聖ローマ帝国のほとんどの諸侯とも同盟を結んだ。
こうしてオランダは孤立し、あとはフランスが攻めこむだけというところまで来ていた。
「アルレシアも同盟結ぼうよ」
そんな中、アルレシアのところにもフランスが来て同盟を呼び掛けた。
アルレシア騒乱によって各国はアルレシアが事実上の独立国家であると認識し、同君連合のイギリスとは別枠で交渉するようになっていた。
「オランダ包囲網のことか?」
「そういう見方もあるね」
「頷くわけねぇだろ、恋人だぞ」
アルレシアは吐き捨てるように言い、手をヒラヒラと振る。
「さっさと帰れ。交渉には応じない」
「ちえっ、いいなぁ、そんなはっきり恋人だ、なんて言ってもらえてさ」
「はいはい」
近い将来敵対すると言っても、やはりお互い最も長い付き合いの国だ。
絶対に壊れない信頼があるからこそ、戦いを前にこんな軽い調子で済ませられる。
そして1672年、アルレシア以外すべての欧州がオランダに敵対する状態で、オランダ侵略戦争が始まった。