17世紀の危機: オランダ侵略戦争
各国が敵対にまわった今、オランダが頼れるのは自身だけだった。そのため、これまで総督になることを禁止され一時期は追放すらされていたオラニエ公ウィレム3世が将軍としてオランダ南部に展開した。
フランス、ケルン選帝侯、ミュンスター司教などが南と西から接近し、海上からは第三次英蘭戦争としてイギリス艦隊も迫る。
さらに、フランスの裏をかく戦術で軍がオランダの警戒を掻い潜ってきたため、あっという間にオランダ南部の3州は占領されてしまった。
焦ったオランダ共和政府は、ホラント州にて洪水線作戦を決行、周囲を水没させて防衛に回った。
海上では善戦し、イギリスはほとんどオランダに影響を与えることができなかった。
「大丈夫…じゃないよな」
水没した大地が広がるホラント州、川の堤防でオランダとアルレシアは並び立つ。
「悪い、俺はやっぱ直接参戦できそうもない」
「仕方あらへん。ほれがアルレの強みやざ」
アルレシアは基本、不干渉政策を第一とする。巻き込まれない限り、または直接危害を加えられない限り、アルレシアは自ら外国の戦争には参加しない。
それは今回のことでも枢密院が踏襲して決めたことだ。
アルレシアはフランス側ではないが、かといって明確なオランダ側でもないのだ。
武器や物資は通常の半分以下の価格で売っているし、無償支援もしている。
しかし、もしアルレシア軍が投じられれば、それだけでオランダ本土の防衛は事足りる。それなのに何もしてやれないのは、アルレシアにとって歯がゆいことだった。
「…俺、外交で支援するわ」
「…頼む」
目の前に広がる水面は、本来田畑だった場所。壊滅的な打撃を受ける農業のことも考えて、オランダはアルレシアに素直にそう頼んだ。
アルレシアはまず、諜報兵による情報からフランスが結んだ同盟にチャンスを見いだした。
フランスは、オーストリアとの間にスペイン分割を決めた同盟を結んでおり、スペインをまず引き込めそうだった。ついで、オランダのオラニエ公ウィレム3世の後見人であるプロイセンのフリードリヒ選帝侯も説得のチャンスがある。
オーストリアにこのことを伝えれば、スペイン分割とフランスの勢いを削ぐこと、どちらが得か考えてくれるはずだ。
そうしてアルレシアは、スペイン、オーストリア、プロイセンを集めて説得にあたった。
「集まってくれてありがとな」
会議室に集まった3人は、すでにアルレシアの言い出すことを心得ているようだった。
「単刀直入に言う。オランダ側についてくれないか」
「メリットは」
真っ先に口を開いたのはプロイセンだ。アルレシア同様、余計な言葉はない。
「フランスが勝ってもお前にメリットはない。でも、オランダが勝てばオラニエ公の後見人であるプロイセンにとってメリットになるだろ?」
「確かにフランス側にいてもメリットはねえけど、デメリットもねえ。オランダ側は、メリットもデメリットもあり得る」
「はっ、東欧で存在感高めてるやつだと期待してたけど…こっちじゃ期待できねえか?」
嘲るように言ってやれば、プロイセンの頬が1度引き攣る。
「俺様、挑発には乗った上で打ち負かすのが好きなスタンスだぜ」
「知ってる。見せてみろよ、新興国さんよぉ」
まるでチンピラのメンチ合戦だ。
不敵に睨み合う2人に、スペインがおろおろとし、オーストリアがため息をついた。
「お下品です、お二人とも」
諌めるオーストリアを見て、アルレシアはニヤリとする。
まるで、次のターゲットとでも言うかのように。
「知ってるぞ、オーストリア。フランスと一緒に、スペインの王家が断絶したあとにスペイン分割するんだってなぁ」
「えっ、そうなん!?」
驚いたのはスペインだ。
プロイセンも「うわ、えげつねえ」とニヤニヤを崩さない。
オーストリアは済ました顔でいる。
「そうですが何か」
「開き直ったよこいつ…」
プロイセンは面白そうにしながら呆れるという器用なことをする。
スペインは少しショックを受けたようだった。
「オーストリア、そんなこと考えとったん」
「そうだぞ、スペイン。あいつ、済ました顔でお前のこと地図から消す気だぞ」
アルレシアは立ち上がってスペインの背後に回り、その肩に手を置いて囁く。
「俺、お前に消えて欲しくない。だからさ、一緒に戦わね?」
「せ、せやね!俺、アルレシアにつく!」
「俺じゃなくてオランダな。まっ、決まりってことで」
プロイセンは最初は面白そうなことを高見の見物をするつもりだったが、アルレシアの狐っぷりにだんだんと恐怖すら感じて来ていた。
150年以上に渡って他国の同君連合という支配下にあったかつての強国というイメージは、いまだに衰えを知らない現役バリバリの化け物に変わっていた。
武力だけが強さではない。プロイセンはそんな重要なことをここで思い知った。
「では、私もオランダ側につきましょう。バレてしまいましたからね」
「お前も大概、とんだ野郎だな」